俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、無駄足

 

 ブリテンからギリシャに帰るための道すがら、ケルト版ヘラクレスことクー・フーリンと出会ってしまった。食事に誘うことで時間稼ぎには成功したが、稼いだ時間でもっとヤバいことを思い出してしまった。そのヤバいことを何とかするためにロードローヴァーに飛び乗り、海を渡って北アメリカ大陸に向かう俺だったが、なんでかクー・フーリンも付いてきた。なんでやクー・フーリン関係ないやろ。音より速い馬の王より速いってのは聞いてたが、まさか第一宇宙速度に追い付けるとは思わなかった。秒速7km越えだぞ頭おかしいんじゃないかケルト。しかも陸上じゃなく海上だぞ頭おかしいなケルト。

 

「帰れよ。アイルランドに帰れ」

「おいおい、面白そうな戦の空気を纏って走り出されたら、アルスターの戦士なら追いかけるに決まってんだろ?」

「だからって普通は海は越えねえんだよ頭おかしいだろお前」

「師匠だって俺と同じことを言うだろうよ」

 

 頼んでやるから帰れよマジで。ゲッシュ全部破らせんぞコラ。俺は一応詩人にもなれるからマジで破らせようとすれば破らせることもできるんだが?

 ……死因は確か、ゲッシュを破らせるだけ破らせて武器を全部奪って軍団で圧殺したんだっけか。剣も槍も戦車も城も、全部奪い尽くした上で数十万……いや、メイヴと言う女の能力の特性上、文字通りに時間さえあれば無限にかなりの実力を持つ兵を用意できる以上、最低でも千万は見ておくべきだろうな。その九割を磨り潰してようやく勝利できたと言うのだから、もう本当に意味がわからないな。継続戦闘能力だったらヘラクレス以上かもしれん。なにしろ完全な状態なら一年以上飲まず食わず眠らずで一対一の決闘を何百何千何万何十万何百万何千万と続け、最終的に勝利を納めると言う頭のおかしい奴だからな。マジで意味がわからない。馬鹿じゃないのかこいつ。

 ともかくとして、北アメリカ大陸に到着した訳だが、思い出したことがある。

 ……ついさっきまで俺はブリテンに居た。そして北アメリカを初めに征服するのはスペインだが、スペインはどうしてもイギリス……いや、ブリテンを無視することはできないだろう。なにしろローマに恐れられたアーサー王が治めるブリテンが、神秘をそのままに存在し続けるのだ。無視して行くには危険すぎるだろうし、敵対するにしても相手が悪すぎる。魔力をほぼ無限に供給されつつ海上を高速で走り回りながら聖剣の真名解放を連発してくる奴等を相手に海上戦とか死ぬしかないだろう。そもそもウルクのギルガメッシュのことを考えれば南のことも考えなければならないしな。

 要するに、北アメリカの原住民に力を貸したりしなくとも恐らく征服しに来ることはまず無いと思われる。と言うかギリシャ圏で他の国に喧嘩を売ったらその時点で国家から俺の庇護が失われる事は有名な上に実際にそれで数多くの国が消滅しているし、今の今まで神が実在し、姿を見せているためにそういった庇護がかなり重要になってくることを理解している国しか残っていないのでスペインができるかどうか怪しいし、できたとしても戦争を仕掛けて来た時点で死亡がほぼ確定する中で侵略国家が成立するとは思えない。

 ちなみに、アレキサンダー大王は征服しに行こうとして失敗してあっという間に死んでいる。征服王などと呼ばれることもなく、ただ死んでいる。

 ……フランスとかスペインとかドイツとかイタリアとか、できないんじゃないかね。マジで。ケルトも普通に生き残っているし、聖書やら聖四字やらの宗教も俺の知る世界に比べればかなり小規模ではあるが続いている。そんな世界なんだから、色々と歴史が変わりそうだ。マジで。

 ……いや、変わらないわけがないか。色々と変えている原因は……まあ、俺にも一因があるだろうしな。もう色々と遅いし。

 


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