毎日カレーでは飽きると言う意見があった。まあ、それを言った奴は今、円卓に縛り付けられて真名開放寸前の聖剣三本に囲まれているが、まあ正直なところその気持ちはわかる。俺もそんな毎日毎日カレーは飽きる。普通に飽きる。当然飽きる。だからこそギリシャでも月一な訳だし。
そこで用意したのは、カレーで使う数々の香辛料の大半を使わないまま醤油で味を付ける……まあ、肉じゃがのような何か。肉じゃがではない。あくまでも肉じゃがのような何か、だ。しらたきとか糸こんとか入ってないしな。
「このようにカレーを作らなくてもいろいろとできる物はある。だが、焼くのと煮るのを両方一度に覚えられるカレーを先に覚えてもらった方が楽だからカレーを教えている。よほど酷い失敗をしない限りはカレーは食える物になるしな」
『はい!』
実に元気のいい返事だ。それにカレーに飽きたと言っていた騎士も今のでまたやる気を取り戻したようだしな。自分で作った料理を誰かに食べてもらって喜ばれるのは中々に嬉しいものだぞ? この時代のこの場所じゃあそんなことをする余裕なんて無かっただろうからわからなくても仕方ないがな。
まあともかく、円卓にカレーを広めることには成功した。自分の手で作る方法を先に教えたのは、大釜を使えばカレーの完成品が簡単にできてしまうからだ。苦労を知らずに完成品だけを出せてしまうと言うのはあまりよくない。苦労があるから、不幸があるからこそ幸福を感じることができる。
それに、完成品は液体だから持ち運びは難しいが、材料ならある程度簡単に持ち運びができる。穀物系も出せるし、材料があれば簡単にカレーライスが作れるのだ。
食べ物が無いからとにかく食べる事だけを考える。しかしある程度以上食べ物が供給され始めると、今度は美味いものが食べたくなる。それは人間であるなら当たり前のことで、欲ではあるかもしれないが悪いことではない。神だって、食うなら美味いものの方がいいからな。むしろ不味いと食わないし。
ちなみに神にとっての料理の味には判断基準が二つある。
一つは普通に美味いかどうか。もう一つはその料理に込められた思いの量や質だ。
信仰や畏怖と言った感情は、神格にとっては存在を続けるための重要なエネルギーだ。だからこそ神格に捧げる物はただ珍しいものであったり高価な物ばかりではなく、それを手に入れるまでに苦労する物であったり努力の末に作り上げた物であったりしなければならない訳だ。そのために試練を与えたりするわけだし。
まあそんなわけで、食文化が消え去ったブリテンに新しくカレーと言う食文化を叩きこむことには成功したわけだし、俺はそろそろ帰ろうかと思っている。スカイ島はとうの昔に世界の裏側に移動しているから、世界の表側を歩いて行く分にはスカアハと再会して戦闘になるようなこともないだろう。あるとしたらクー・フーリンだな。
伝説上で死んでから結構な時間が過ぎているにも関わらず当時の騎士団の団長に会っていると言う話があったし、時代的にはもう死んでいるが俺の前に出てこないとも限らない。しかも伝説上では音より早く走ると言う馬の王より遥かに速く走ることができるって話もあるし、本当に恐ろしい。しかも神殺しだし不死殺しだし獣殺しだしで俺の天敵とも言える存在だ。不死で神でペットが居るしでな。
……まあ、流石に光速を超えることは無いだろうし、もしも出会ってしまったら時間停止して全速力で逃げるとしようか。スカアハと引き分けた身としては、スカアハ以上なのが確定しているあいつと本気で戦うようなことにはなりたくないし。