身体はカレーでできている。
血潮はルーで心はライス。
幾度の厨房を越えて美味い。
ただ一度のお残しもなく、
ただ一度の完成もなし。
料理人はここに一人、食材の山でカレーを作る。
故に、この人生に理由は要らず。
この身体は、無限のカレーでできていた。
……みたいな詠唱をすることで食材なしのまま無限にカレーの試作ができる弓兵募集中。
「いませんよ」
「いませんな」
「おらんぞ」
「いないわよ」
「肉じゃがおいしい」
「「「誰だお前!?」」」
洩矢神が肉じゃが(かつて日本でカレーを再現しようとした結果できたと言う噂があるもの)を頬張っているところに現れた知り合い三人に突然のダメ出しをされたが、可能性としてはある気がするんだよなぁ……今は居なくとも未来で生まれている可能性はあるわけだし。むしろこの世界には居なくとも平行世界にはカレー好きの吸血鬼だとかカレー好きの埋葬機関だとかがいてもおかしくないと思う。昔の戦隊物のイエローのような感じで。
あと、さっき言った弓兵のような奴が本当に居たら雇いたいところだ。連絡先はヘスティアカレーオリュンポス事務所まで。ただし直接来ようとすると蜂やら蛇やら猪やらが襲いかかってくることもあるから注意な。
客は襲うなと言ってあるんだが、客は月に一度か二度見慣れた奴等が来るくらいでそれ以外には殆どいないし、そいつら以外は敵として認識している奴も居るほどだ。
実際には極希に客も来ないことはないんだが、ギリシャだからな。自業自得を認めようとしない奴も結構多いし、考え無しにとりあえず殴って見るような奴も少なからずいる。アキレウスとかは自分から攻め込んでおきながら敵国を守っていた英雄が自分の親友を殺したって理由でその相手の死体を戦車で引き回すような奴だからな。死んでいいと思うぞ? 実際死んだが。
「そう言えば、その後ろの物は……?」
「
「
「俺を召喚しようとした時に色々あってな。カレーにしてやった」
「なるほど……もしや、これを手に入れれば農業用のスパイス屑を減らし、さらに美味いカレーを広めることが……!?」
「残念ながらこれは人間が作ったやつだからな。俺が作った大釜の方がまだ効果高いぞ? それにブリテンに持っていったところで何かが変わるようなものでもないしな」
非常に残念そうにしているが、俺の知ったことじゃない。俺を呼び出したアインツベルンやこんなものを作ったアインツベルン、企画したアインツベルンを恨むんだな。ついでに遠坂とマキリも。
「……はぁ。やる気なくなりました。つまりこの世界にはまともなカレーなんてないと言うことじゃないですか。クソですね」モグモグ
「はぁ……昔の我に任せるか」モグモグ
「カレーが広まっていない世界とか存在する価値あるんですかね?」モグモグ
「無いな」モグモグ
「無かろうよ」モグモグ
「ですな」モグモグ
「儂はあってもいいと思うがの。『全ての料理はカレーに通ず』とも言うし、もしかしたらカレーが無いからこそ儂らの常識を打ち砕くような料理が出るかもしれん」モグモグ
こいつら思考がカレーから始まりカレーに終わるようになってやがる。俺のせい? そうかもしれんが知らんな。ちゃんとカレー以外も食わせてきた筈なんだがなぁ。
ちなみについさっき作った肉じゃがは日本で自然に取れるものしか使わないと言う縛りをつけて作ってみたため、かなり和風な感じになっている。なにしろ香辛料の種類が少ないし、香り高い物もあまり多くない。それにその少ない香辛料も舌に感じる刺激や味が似通っている。カレーのような複雑にして精妙な味を作るのは、はっきり言って難しすぎる。だからこそ肉じゃがと言う別の料理になった訳だが……まあ、カレーと同じだと思わなければ十分な味だと思っている。山椒やらなにやらが割と強めだが、それはまあカレーを目指していた頃の名残とでも思っていてくれると嬉しい。事実そうだし。
「……だったらカレーポットの中に溜まったカレーの概念をこの町にぶちまけてみるか? もしかしたら影響されて美味いカレーを作ろうとする奴が出るかもしれんぞ」
「やりましょう!」
凄い即答だ。目がキラッキラしている。ではさっさと……ああ、いや、こいつらを受肉させてからの方がいいかね? じゃないとこいつらのマスターの負担が……あれ、こいつらマスター持ちが半分いなくね?
まあ、受肉はさせよう。はいどーん。
騎士王、カレーに溺れて受肉。
英雄王、カレーに沈んで受肉。
湖の騎士、カレーにまみれて受肉。
裏切りの魔女、カレーに侵され受肉。
復讐の魔女、カレーに浸されて受肉。
洩矢神、カレーと気合いでなんか受肉。
199X年。冬木市はカレーの波紋に包まれた!
特に破壊が起きることもなく、何かか死ぬようなこともなく、あらゆる存在はなにも変わらぬままに続いていくかに思えた。
しかし運命は、あまりにも大きく変動していた!
正義の味方を目指す事になっていたかもしれない少年は、正義の味方の代わりにカレー専門のシェフになることを志すようになり。
地獄を生き続けることになっていた少女はカレーに目覚めた。
ついでになぜかここにはいない筈の埋葬機関第七位は即座に日本への渡航を決め、カレーに命を売り渡した死徒は最悪海を泳いででも日本に渡ることを決意した。
これより始まるのは、空白の時間。始まりから終演に至るまでの、ほんの僅かな
……なんか後ろで『カレータイムにしろよ馬鹿野郎カリバー!』とか言う声が聞こえて来る気がしたがきっと気のせい。
そして、10年後。もう一度世界は動き出す───。
「おい、余はどうなった」
聖杯が無くなったので消えました。
「おい!そりゃ無いだろう!?」