この世界、と言うより俺の前世には数多くの神話が存在している。例えば俺が今居る世界であると予想できるギリシャ神話や、それと同一視される神々の多いローマ神話。共通点は多いが同一視されることは多くない北欧神話。数多くの英雄たちの話が大半を占めるケルト神話。ある意味最も身近にあった日本神話。最も早く作り上げられたと言うバビロニアの神代の物語でもあるギルガメッシュ叙事詩。世界を完全に悪性と良性に分けたゾロアスター神話。西暦1900年代において最も栄えた聖書からなるキリスト、あるいはユダヤ教の神話。インドにおけるヒンドゥー教の神話等々、その内容も数も計り知れない。
様々な神話の中にはおよそある共通点が存在する。不思議なことに、まるでひっそりと何者かが口裏を合わせたようにある存在が現れるのだ。
神ではない。神と言う存在は神話を語る上では確かに必要不可欠の存在であることは間違いないが、しかしそれは『人間には理解できない超越存在』としての自然の一側面でしかないことが殆どだからだ。だからこそそういった存在は神と言う名で呼ばれることもあれば悪魔と呼ばれることもある。立場が違えば同じ存在を神とも悪魔とも言うのだから、それが共通した存在だとはとても言えないだろう。
共通する存在。それは、龍。西洋と東洋、その他の地域においてはその姿形こそ違えども爬虫類を基準とした鱗を持つ存在がまず間違いなく出現している。それは悪性の存在であったり良性の存在であったり、時にはどちらでもない自然そのものの化身であったりするのだが、多くの神話にその存在が語られている。
そうした存在の多くは多淫であり、多くの子や眷属が存在する。しかしそういった存在を抑えるようなものもいる。つまるところ、やり方次第で動物ですら性欲を押さえることができ、動物にすら抑えられるような欲を抑えられない
そして今、俺は
「……と言うことで、子供を作ると言うのはこれだけの工程を経て完了するものであり、けっして作ってそれで終わりとすることではない訳だ。理解したか?」
「……姉貴ィ……姉貴は処女だよな?」
「その通りだがそれがどうした?」
「……なんでンなこと知ってんだ?」
「答えてやる義理は無い……が、答えてやろう。俺は孤児の庇護者としての権能を持っている。孤児と孤児から成長した親を見極める一つの目印としてそういった知識が初めからあるんだよ。お前にもあるだろう? 自分の権能の知識と、権能を使うにあたって最低限必要な知識が。お前だと……海、水、大地と言ったところか」
「……ある。たしかにある。なるほど、だから姉貴は処女なのにいろいろ知ってんのか」
「そう言うことだな。でだ、ポセイドン。―――俺が言いたいことはわかるな?」
なんで俺が
だが、男と言うのはそれを理解できていない。俺も人間だったころは理解していなかったが、ヘスティアとなってからは権能関係で少し理解できるようになった。
そして、
……もし襲ったら、今度こそ去勢だな。去勢すると闘争本能を失って大人しくなるそうだから、やんちゃが過ぎるなら―――
「……姉貴。なんかすげぇ嫌な予感がしたんだが」
「大人しくしておけ、と言う危機察知本能だろう。よかったな、割と当たるらしいぞ」
ポセイドンはガタガタと震え出した。不思議な事もあったもんだ。