俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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カレー香る聖杯戦争四日目

 

 カレーについて語れば、それはそれは長くなる。円卓においてカレーの最も美味なる点について議論すれば、間違いなく数ヶ月はかかるだろう。そして対話から胸ぐらの掴み合い、そして料理勝負を経て最後には『それぞれ人には好みがあるため画一的に決めるのは不可能、むしろカレーを定義するなど不敬極まりない。』と言う結論に達し、お互いの作ったカレーを食べてその言葉に納得する、と言う終わりになるだろう。

 だがしかし、それはこの世界ではなく私達の世界での話だ。私達の世界ではそうだったとしても、こちらの世界においてはカレーを知らなかったが故に円卓は割れ、砕け、国は滅び、消え去った。諸行無常と言う言葉がこの国にはあるが、この世界におけるブリテンと言う国はまさにそれだ。いや、英雄王のウルクもそうだし、ここにはいないが極東の洩矢神や彼の神格ですらこの世界では衰退してしまっている。

 この世界が私の世界でない以上、歴史がそうなっていようが私には関わりの無いことだ。彼の神は無理矢理に思想を広げることを良しとしないため、私がこの世界にカレーに対する信仰を広めることはない。積極的に広めることはしないが、広まってしまう分には仕方の無いことだ。

 信仰は空気のようなものだ。密度の高いところから低いところへと拡散するように広がっていく。拡散してしまうと元の部分の信仰は薄れてしまうが、信仰と言う形の無いものではそれは当てはまらない。要するに私達が生きて、信仰を抱き続けていれば、カレーに対しての信仰は永遠のものとなる。

 

「ああ、私、広めてまいりました。人間を食い物にする気色の悪い蟲がおりましたので、カレーに仕立ててみたところそれなりの味にはなりました。新人ですが一名確保です」モグモグモグ

「そうか。ではお前が最低限私の前に出してもよいと思えるようになったならつれてくるが良い。カレーを愛するものとして妖精郷(アヴァロン)の祝福を授けよう」モグモグモグ

「人理が乱れます。おやめください我が王」モグモグモグ

「ではこの我が見定めてやろう。結果次第で我が宝物庫より見合ったものをくれてやろう」モグモグモグ

「人理が乱れます。おやめください英雄王」モグモグモグ

 

 しかし、困った。手が止まらん。不味い物ばかり食べていたせいだろうか。私の身体がカレーを求めて仕方がない。恐らくそれは英雄王も同じなのだろう。先程からカレーの消費が止まらない。止まるところを知ろうとしない。止まりたくない。

 

「あ、もう材料がないので今日はおしまいです」

「今日と言うか昨日から食べっぱなしだったわよね……」

 

 その声が聞こえた瞬間、私達の時間は間違いなく止まった。

 

「……冗談だとしたら笑えないのですが」

「無いものは無いのだから仕方無いわ」

 

 ……。

 

「英雄王。私が代金を出すのですから優先権は私にあるのは当然ですね?」

「何を言うか。我が初めの一杯を食べ、我が終わりの一杯を食べる。それは我が定めた法だ。何人たりともこの法を破らせぬ。最後の一杯は我が物となるのは必然よ!」

「ふむ、どうやら争いになるようですね。それでは私が預かっておきましょう。胃に」

「「させるか愚か者!」」

 

 だが、この状況はまずい。特に三人と言うのがまずい。一人を相手にしようとすればもう一人が自由になる。それはつまり体力を温存させてしまうと言うことでもあるし、隙を曝すと言うことでもある。邪魔されるにしろされないにしろ、非常に良くない事態になること請け合いだ。

 それになによりここでは宝具を使えない。と言うより武器を使うとカレーに埃が入る可能性がある。魔力放出すら最低限しかできないだろう。カレーに埃を入れるような奴は死ねばいいと思う。

 

「カレーに埃を入れるような奴は死ねばいいと思う」

「同感だ」

「同意します」

「ここは一つ、埃の立たない決闘を行おうではないか……!」

「いいだろう!我の『図書館エクゾ』に勝てるものかよ!」

「ふっ、私の『デミスドーザー』が火を吹きますよ」

「いやいや、私の『インフェルニティ』こそ最強のデッキ。負けるものですか」

 

 決闘(デュエル)!!

 

 

 

 騎士王、デュエル開始。

 英雄王、デュエル開始。

 湖の騎士、デュエル開始。

 

 

 

「そうそう、私の知り合いにはああいったカレーに命をかけた手合いが結構いるから、カレーを馬鹿にすると死ぬわ」オレノターン!ドロー!オウリツマホウトショカンヲショウカン!ゴウヨクナツボハツドウ!チェーンシテクジュウノセンタクハツドウ!コノシュンカンテフダニエクゾディア

「死ぬの!?」イワァァァァァァク!

「死ぬわ」イワァァァァァァク!

「どのくらい死ぬの!?」フハハハ!キョウジン!ムテキ!サイキョウ!

「どのくらいって……そうね……図書館エクゾに先手を譲るくらい死ぬわ」フンサイ!ギョクサイ!ダイカッサイ!

 

 あ、それは死ぬわね。普通に死ぬわ。今みたいに。

 

「あるいはライフ4000環境でサモサモキャットベルンベルンDDBDDBからの効果発動されるくらい死ぬわね」

 

 それもそれで死ぬしかないわね。

 

「もしくは苦渋施し現世と冥界の逆転か、黄泉転輪ホルアクティくらい死ぬわ」

 

 さっきからどれもこれも致命傷ばかりなのだけれど、どう言うことなのかしら。そこまで死ぬってことなのね?

 

「ふむ、それでは支払いは任せたぞ騎士王!フハハハハハ!」

 

 英雄王は上機嫌に笑いながらカレーを食べつくし、霊体化しながら私達の魔術工房を後にした。一応神殿と呼ばれるに相応しいだけの物だったはずなのだが、あの英雄王には関係の無いことだったようだ。

 

「くそう……英雄王め……あ、これが代金だ」

「現代の金銭でもよろしいですか?」

「構いませんよ。……金の地金と札束ですか。まあ、全員が一般人の千倍以上は食べてましたし、いいでしょう。支払いを確認しました、またのご来店をお待ちしていますね。……次回からは魔力払いでも結構ですよ?」

「私はそれをすると消える。単独行動がないからな」

「私もですね。申し訳ありません、レディ」

「フン!」

「ウボァ!」

 

 ……まあ、この世界では寝取りによって円卓に皹を入れたランスロットだけれど、元の世界でも王妃にこそ手を出さなかったけれど色々と下半身でものを考える性質は変わっていないようね。

 そんな騎士が極上のカレーの作り手に手を出すことは許されないのでしょう。そう考えておこう。

 

 メディア、困る。

 メディア☆リリィ、腹有情猛翔破を見る。

 

 

 

「儂、ちょっと用事ができたから出掛けてくるの?」

「……どちらへ?」

「なぁに、ちょいと───ミシャクジ様の所までの」

 

 洩矢神、立つ。

 言峰綺礼、復活が遠退く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様……何者だ?」

「……ふん、この俺の尊顔を拝してなお理解せぬ……そのような無知蒙昧はこの世に要らぬ」バビローン

 

 槍兵、絶体絶命。

 

 

 

 


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