俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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カレー混じりの聖杯戦争初日

 

 この二人とはわかり合えない。何があろうとどんな理由があろうと関係無くわかり合うことはできない。私がそう認識したのは、私の目の前で二人がカレーを残した時だった。

 パンで拭えば、あるいはライスを使えば全てを食べ切ることができるのにも関わらず、この二人はそれをしなかった。

 その事を告げたが、男、衛宮切嗣はその言葉を無視し、女、アイリスフィールはそうすることができていなかった。

 

 だから私はとりあえず、男の顔を殴り飛ばした。

 アイリスフィールの方はまだ良い。食器の扱いが苦手だから残してしまう存在は私の時代にも居たし、今もいる。ガウェインは自分で作ったマッシュポテトを使わなければ食べきることもできなかったし、他の騎士達もなんとか全てを食べ切ることができるようになるまでそれぞれ試行錯誤を続けていた。

 だが、この男はそういった努力を見せようとも、そもそもそうしようとする意思すらも見せずに無視をした。私とは相容れない存在だ。許しがたい侮辱だ。

 

 私が殴り飛ばした勢いのまま壁に衝突して空中に浮いた男の鳩尾に抜き手を叩き込む。第一間接までが皮膚を突き破った感覚があったが更にそのまま抉り込み、心臓を握り潰して引っこ抜く。生暖かい血が顔にかかるが、知ったことではない。

 男の右手が光り、刺青が一つ姿を消した。だが私はそれに構わずひたすらに男を殴り続ける。右、左、前、後、上、下。この状態に成っているときの私の動きは獣のそれで、身体能力や魔力放出に任せた力だけの暴行にすぎないが、それでも最低限の理性によるブレーキはかかっているためかこの行為で相手が死ぬことは無い。実際、罰として顔の直径が通常時の三倍近くまで腫れ上がるほどに殴り続けたランスロットやモードレッドも死んではいなかったし、全身の皮膚が青黒くなるよう均等に内出血を起こさせたトリスタンだって呼吸すら苦しそうではあったが死んでいない。

 ただ、それを見ていたギャラハッドやベディヴィエールは死んだような目で見ていたが。

 

 男はやがて動かなくなる。アイリスフィールは私を止めようとしたが振り切られて気絶している。そして、私の右手には令呪が収まっている。理由はわからないが、竜の因子が魔力を求めでもしたんだろう。これで私は私の魔力を使って魔力を生産できるようになった。

 

 ……金目の物でも貰って目的を遂げよう。この世界の私は既に死んでいるようだし、ブリテンも滅びて久しいようだ。

 

 

 

 衛宮切嗣。カレーを残したせいで裏切られ、リタイア!

 アイリスフィール・フォン・アインツベルン。暴走したセイバーの余波を受け気絶。体内のアヴァロンによって一命を取り止める。

 騎士王アルトリア・ペンドラゴン。マスターである衛宮切嗣の心臓を抉りとることで無理矢理経路を繋ぎ、令呪を奪って去る。以降、フリーのサーヴァントに。

 

 

 

 英雄王(カレー)は、異なる世界のカレーを食べるためにこの世界、この時代の聖杯戦争に参加していた。

 しかし、出されるものはどれもこれもが満足できないものばかり。確かにこの世界のギルガメッシュが召喚に答える前にその日の夜に時臣が食べていたカレーを二つ目の媒体として無理矢理に召喚された身ではあったが、それでもギルガメッシュから見れば『用意できるものは用意する』と言った時臣の言葉は嘘としか取れないものとなっていた。

 故に、こうなったのは必然とも言える。

 

「時臣」

「は、何でございましょう」

「死ね」

 

 

 

 遠坂時臣。美味いカレーに釣られたからこそやって来た英雄王(カレー)を満足させられず、リタイア!

 英雄王ギルガメッシュ(カレー)。契約の履行が不可能であるらしい時臣に罰を与え、去る。以降、フリーのサーヴァントに。

 

 

 

「言峰綺礼。生きておるかの?」

「ぅ……ぐぁ……」

「ふむ、死にかけか。よくやっている方だとは思うが、よくもまあその程度の実力で儂を呼ぼうと思ったのぉ?」

 

 言峰綺礼は何も答えない。答えることができるほどの余裕もないし、例え答えられたとしても魔力の回復のために休んでおきたかった。自身の魔力消費量を知っているが故に洩矢神もその態度を許していたし、ただ呆れたように溜め息をつくだけで流していた。

 洩矢神は常に霊体化しているが、それでも凄まじく魔力を持っていく。霊地に隠っていなければ数時間も持たずに綺礼は干からびていただろう。

 ただ、洩矢神は聖杯を求めているわけではない。自身が一ヶ所に身を置く土地神の一種であるために普段は見ることのできない様々なものを見ようとしたためである。

 しかし、洩矢神もまさか異教の神の僕に召喚されるとは思っていなかった。初めのうちは合わないかと思っていたが、言峰綺礼が自身にとっての愉悦を知らない求道者であるところから、異教のものではあるが神として多少の導きを与えた。

 異教の神を信仰するものであり、異世界の神である洩矢神。この世界においてはあまり知られていない神格だが、元々の世界では非常に有名な存在であった。

 こちらの世界で言うところの西暦2000年代に入っていても数々の神格が実在している上に権能すら保有している事が証明されている世界で、非常に強大な神権を保持し続けている一柱。その神格を見せ付ける古代の塔は、様々な異教の神格の影響を跳ね退けてきた。

 実際には洩矢神はその塔の神格の代行神でしかないのだが、代行であろうとも代行に足るだけの力を持っていることがかつての大戦によって証明されているし、人間同士の戦争によって大地が焼けそうになった時に土地を守り、攻撃を跳ね返したと言う現代の逸話まで存在している。

 

 そんな神格を千分の一とは言え顕現させているのだから、綺礼にかかる負荷も相当なものだ。綺礼は殆ど動くことができず、洩矢神も気配遮断が使い物にならないので偵察に行くこともできず、教会の地下にひっそりと隠れ過ごしていた。

 

 

 

 言峰綺礼。魔力消費が凄まじすぎて暫く行動不能。代わりに洩矢神との問答により答えに指先をかける。

 洩矢神。テレビやラジオで様々な情報を得て中々に楽しんでいる。

 

 

 

「……何でこうなってるわけ?」

「私が召喚したから?」

「そうじゃないわよ。いえそうなのだけれどそうじゃなくて……」

 

 メディアは頭を抱えていた。最古の英雄王、ギルガメッシュ。ブリテンの騎士王、アーサー・ペンドラゴン。世界の半分近くを領土とした征服王、イスカンダル・ズルカルナイン。アーサー王の円卓の騎士、湖の騎士ランスロット。そして本来のキャスターであり、メディアを召喚した復讐者。メディア☆リリィ。正直、あまりにも意味がわからないことになっている。

 まず、キャスターがキャスターを召喚していると言う時点で意味がわからない。キャスターが存在していると言うことはキャスターの席は埋まっていると言うことなのに、なぜかそこに自分と自分(?)の二人が座っている。

 それだけならお互いに協力していけばいいところだが、他の召喚された顔ぶれが凄まじいことになっている。先程名前をあげた四人に加え、魔術を無効化し魔力を両断する槍を持つディルムッドと、気配を察知させずにマスターを狙うアサシン。どいつもこいつも魔術師にとっては非常に相性が悪い。聖杯戦争に負けたとしても失うものは何もないが、色々と反則染みた身体で召喚されている以上はなんとか勝利を掴みたい。

 私には願いらしい願いは無い……と言うより、私が願いを叶えるためには聖杯には頼れない。聖杯よりも私の努力が必要だ。

 目的は、神や自称英雄と言った私以外の存在に影響されずに、幸せな生活を送ること。もう一人の私(?)は何を思っているかはわからないけれど……と言うか正直わかりたくないけれど、少なくともカレーに関連するものだと思われる。

 

「美味しいカレーを食べたい」

「心を読まないでちょうだい」

「水銀分子の集合生命体に命を与えて使い魔にしているのだから、読もうとしないでもわかるのよ」

 

 ……紀元前に水銀の分子の一つ一つに命を与えて群体の生命にするとかどう考えても頭がおかしい。そんな頭のおかしい私がどこかの世界に存在するとか認めたくない。意味がよくわからないわ……。

 

「あ、私もカレー食べるかしら?」

「……遠慮しておくわ」

「そうそう、この聖杯戦争ではカレーに魅せられた英霊が他にも居るようだから、食べておけばそれに気付いた英霊なら見つかっても戦闘より先に会話から始まるかもしれないわ」

「……頂きます」

 

 ……なにこれ美味しい!?

 

 

 

 メディア、カレーに溺れ始める。

 メディア・リリィ、カレーに溺れて手遅れ。

 

 

 

「主よ。今日の夕食は蟲カレーにございます」

「なんで蟲を入れた!? いくらカレーでもわざわざ不味くする必要はないだろ!? と言うか気分的に嫌なんだが!?」

「大丈夫です。少なくともガウェインが作るより美味くできましたし、蟲といっても所詮は蛋白質の塊です。ちゃんと火を通したので菌も毒も問題ありません。むしろ魔力がみなぎりますよ」

「……おいしい、よ?」

「桜ちゃん!?」

「はっはっは、子供はたくさん食べるのが一番です」

「…………ああ、わかったわかった、食べるよ」

 

 雁夜はスプーンでカレーを掬うと……蟲と目があった。

 

「……タスケテクレェ……」

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「おや、まだ息がありましたか。生命力ばかり豊富な蟲けらです、ね!」

 

 雁夜の目の前で蟲が宝具となったスプーンで両断される。触れた物をなんであれ自身の宝具にする宝具により、濃厚な神秘を纏ったスプーンに魂ごと磨り潰されて消えた。

 

「ふぅ……失礼をいたしました、主。今すぐお取り替えを」

「……あ、ああ、頼んだ」

 

 ランスロットは笑顔を浮かべ、新しいカレーをよそう。

 この光景を見ていれば、まさかこのランスロットがバーサーカーのクラスで現界しているとは誰も思わないだろう。

 間桐家の夜は、ゆっくりと更けていく。

 

 

 

 間桐雁夜、なんやかんやあってツッコミに疲れながらもカレーによって寿命が残り一月程度から六十年近くに延びる。しかも魔術回路も86本生える。蟲が自滅して魔術回路としての機能だけを残して死んだ模様。ランスロットが暴走しても三十分くらいなら死なないでいられるようになった。それを越えたら? もちろん干からびて死ぬ。

 間桐桜、雁夜と同じような理屈で魔術回路が500本くらい増える。カレーに嵌まる。あと魔術の属性が虚数から水に変化していたのがさらにカレーに変化した。

 間桐臓硯、ランスロットがそこそこの味でいただいた結果、死亡。

 ランスロット、現代にてカレーライフ。ただし料理はブリテン式のためそこまで上手くない。カレーだけは人並み(王、騎士、兵、民に至るまでカレーの狂信者共で、成人までにある程度美味いカレーが作れないと処刑と言う制度すらある国家内での人並み)にできる。

 

 




マスターが脱落したのがすでに三組……意味がわからないね。

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