俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、調整される

 

 オリュンポス山の麓。多くの神が山のより高い場所に自身の神殿を作ろうとする中で、初めからそこに自身の過ごす神殿を作った女神がいる。

 当然ながら俺、つまりヘスティアの事だが、理由はまあ色々ある。

 態々高いところに作ると人間の身体をよそにやるときに面倒だとか、畑の作物が山の上だと育ちにくいのが多いからだとか、山だと広い平地を作りにくいからだとか、ともかく様々な理由があって俺はここに暮らしている。

 時々弁えない奴が俺を襲いに来たりするが、大概は外側の防壁によって焼き焦がされたり重力結界に押し潰されてゴルフボール大の球体になったり空間結界に囚われて何もできないまま凄まじい時間を過ごすことになってそのうち考えるのをやめたところでやっと見つけられて放り捨てられたりと様々な方法で退けられている。

 だが、この結界は俺には作用しない。なにしろ作ったのが俺だからな。俺と言うかヘスティアだが、まあ俺と言うことでいいだろう。実質的には同じような物だし。

 

 結界をすり抜ければ畑が広がる。小さな働き蜂が様々な花から花へと飛び回って花粉を集め、そして受粉も行う。料理に使った骨や使わなかった端材の端材、そして土に鋤き込まれた作物の茎などを食べた蚯蚓がそれらを栄養豊富な糞に変えて地を富ませ、そこに畝を作って種を植える。そこには様々な作物が成るが、もっとも多くの種類があるのは間違いなく数々のスパイスだろう。世界中の様々な土地から集めたスパイスには、薬として使われるものや神聖なものであるとして神に捧げられる物すら存在しているが、俺は空間を一応扱うことができるので様々な場所から採取し、栽培し、増やすことに成功している。

 また、スパイスの花から取れた蜜はそのスパイスとの相性も中々に良い。問題はスパイスの花からはあまり蜜が取れない事だが、元々俺に献上するためだけに集められる花を選んで取る蜜の分は消費されないことを考えれば必要以上に使わない限りは十分な量だと言える。

 ……料理に使い続ければあっという間になくなってしまう程度の量でしかないが、年に一度、かなり小さい俺の掌にも収まるような小瓶一つ分の蜜が俺に献上されるのだ。使わなければもったいないと言うこともあり、使った方が美味いと思えたならすぐに使う。お蔭で大概の場合で品切になっているんだが、仕方ないな、美味いんだから。

 

 畑を越えて進んでいけば、そこには俺の家が見えてくる。その裏手にはペット達や眷族達が住む森や沼地等が広がっているんだが、今回はそこに用はないので行かないが、家の中には用がある。と言うかそれこそ俺にとっては本題だ。

 なにしろ世界の境界を越えながらの旅に、数百年ほどの時の流れ。そういったものがこの身体にずっしりとのし掛かってきているわけだ。ステータスによる強化もあって初めの頃より大分強くなったが、それでも人間の身体だ。限界はある(限界だとは言ってない)。そろそろ一旦外的刺激の殆ど無い状態での休息がほしい。無くてもあと数百年程度はいけそうだが、いけるからと言ってやる必要があるかどうかはまた別の話だ。

 

 扉を開ければ、そこには当然(ヘスティア)が居る。(ベル)が来ることを知っていた(ヘスティア)は、すぐに必要なものを用意して研究室へと俺を誘う。

 さて、次に俺が起きるのはいったいどれだけ未来になることやら。

 

 


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