俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、引金を引く

 

 北欧神話だが、外から来た相手に対して非常に厳しい神話だということは理解できると思う。何しろ外敵から自分たちを守る事から内乱が始まって最後にはみんな死ぬような神話なのだから、外敵にはそりゃあ厳しくなるというものだ。

 ただし、外敵かどうかわからないまま誰かが来るということもたまにあるらしい。基本的には軍勢で来たら敵、個体で来たならば一時的に状況を見てから決めるようになっているらしく、俺のお目付け役として立候補したのがロキだったらしい。

 初めはただ面白そうという理由だったらしいが、今ではそれなりに俺のことを気にかけてくれるつもりでいるらしい。ただ、呼び名はおチビだが。

 

 ……実際、俺は背が小さい。兄弟の中でもそうだし、両親まで含めるとさらに小さくなる。いやまあ両親は巨神だから仕方ないんだが、なんで巨神が親にいるのに俺の背はここまで小さいのかね? 遺伝って知ってるか? 知ってるからヘファイストスがああして足が不自由な形で産まれてきた? いらんところばっかり遺伝の法則に則ってるんじゃねぇよクソが。

 

 まあともかくとして、俺は北欧神話の中をそこそこ歩き回ることができる立場にはなった。外に出て世界樹の根を齧る巨大な蛇の鱗を剥ぎ取ってみたり、世界樹の皮を食べるヤギの抜け毛を集めてみたり、世界樹に住むワタリガラスのような形の鳥の羽を集めてみたりまあ色々と自由に過ごしている。この時代にしか採れなさそうな素材も多く採れるしな。

 ただ、周囲にいる動物はこれまで世界樹を僅かずつとはいえ喰らってきたせいかかなり頑丈で且つ生命力も強い。そのため肉を採るのは一苦労というレベルでは済まないほどに疲れるんだが、女神状態ではない今の身体なら人間らしく卑怯に小狡く立ち回れば何とかできる範囲だ。何度か逃がしてしまったし、学習されて同じ罠にはかからなくなっていたり、逃亡のやり方を学ばれてしまってあっという間に罠から抜けられたりと困ったことは起きていたが、それでもまあ諦めなければ何とかなる。何とかする。それでこそ人間というものだ。今の俺は人間じゃないが。神の作り上げた人間の身体に神の精神が宿っていると言う状態だが。

 

 それとどうでもいいことだが、ロキが『オーディンコロス』とブツブツ呟いていたんだが、ついに行動に移したらしい。自分の子として神をも食らう狼、所謂フェンリルを産ませて育てることに。自分の子供に愛情を注げるのか、注げたとしてもその愛情は歪んだ物ではないか、といった不安はあるが、まあそのあたりまで俺が関わる事は無いし、他の宗教圏の事にまで首を突っ込みに行くことはそう無い。無いように心がけるようにしている。聖四字の神? 知らんな。ソロモン? 可哀そうなことをしたとは思うがあれ以外に方法はない。少なくとも俺には思いつかない。存在していたという事実ごと消滅させなかっただけ有情だったとすら思っている。

 だが、オーディンを殺すためにはラグナロクを起こさなければならないということだ。北欧神話の世界は非常に強力な予言によって守られているし、予言の通りの死に方でなければ死なない代わりに予言の通りになれば必ず死ぬという面倒なことになってしまっている。こればかりは俺にもどうしようもない。俺にできるとしたらせいぜい予言がされていたという事実を滅ぼして新しく俺の予言の権能を使って一部を書き換えた上でもう一度予言するくらいのことしかできないが、残念なことに俺の予言の力は基本的に借り物みたいなもんだからな。本家本元であるガイアのばーさんならともかく、俺じゃあそこまで強力な予言の保護はできそうにない。できないことはないが命を懸ける必要が出てくるだろう。それはお断りだ。

 ……いや待て、逆に考えるんだ。オーディンの死因のところだけ予言をなかったことにした上で、転んで頭を打って死んだと一か所だけ改竄すれば行けるんじゃないだろうか。やらんが。絶対にやらんが。

 

 ……ロキに教えてやろうかね。うん。この世界のことはこの世界で生きる奴に任せるのが一番じゃて。

 


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