俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、貶される

 

 唯一神を崇める宗教にとって、他の神話の神格とは決して相容れぬ存在である。神とは自分達の崇める神ただ一つであり、それ以外の神は神を僭称する邪悪な存在。そうであると信者は思っているし、そうでなければならないと聖書が示している。

 だからこそ、俺のような他の神格を信仰している存在、あるいは他の神格そのものは異端であり、排除するべき存在だと言えるわけだ。魔女狩りや異端審問の最盛期はまだ訪れていないし、そもそもこの時代において聖四字の神を信仰する一神教はちょっとした地方の宗教でしかなく、異端だなんだと騒げるほどの力をつけてはいないのだ。

 

 だが、そういったことを理解していない小さな集団内においては十分に異端審問などが起こりうる。外の集落や町と関わりを持たない村落などではよく起きることで、その内部の掟によって人が裁かれると言うことは珍しくない。

 しかし、時にそういった決まりを無視して旅人を嵌めようとする村落もある。生贄を用意しなければならない時に村の中から出すのではなく旅人を使う、と言うのは少なからずあることだし、機会があればむしろやらない場所の方が少ないとすら言える。

 

 だがまあ、押し付けられたその役割を受け入れるかどうかはこちらにも意思があるわけで。そいつらの言葉に唯々諾々と従って生贄にされるとか頼まれても嫌だし、捧げる相手がヘスティア()ならともかく、聖四字の神じゃ贄にされてやる気も失くすってもんだ。初めからありゃしないんだが。

 北欧神話のオーディンは自分自身に自分自身を生贄に捧げることでルーンの秘奥を知ろうとしたし、俺自身も生娘の寿命と身体を生贄に護国を願われてそれを叶えたことがある。ちなみに生娘を捧げられた理由はその身体を俺が直接使って敵を一掃するためであり、その時には一人の娘の未来と魂が失われた代わりに国は守られた。その娘の魂は俺に捧げられた物だし、大事に大事に取ってある。いつか何かの時に使うかもしれないので精神が壊れないように夢すら見ない深い眠りに落としてある。

 オーディンが自身に自身を捧げた理由は、自身の持つ知識を二重に習得することで自身の理解できていない知識を埋め、さらに多角的かつ客観的に見ることができるようにするためだと思われる。

 俺も同じようなことをやってみたこともあるしまず間違いはないだろうが、そうして得た知識を勝手に捧げられるとかマジふざけ。

 

 まあそんなわけで、異邦の神格の宿る肉体を別の神格に捧げようとした村には消えてもらうことにした。村に火を放ち、周囲を太陽の黒点と同じ程度の熱量の炎で覆うことで逃げる道を無くし、村の住人を一人一人殺していった。

 しかしあれだな、宗教ってのは恐ろしいもんだ。自分達がやろうとしたことは棚にあげて、俺の事ばかり責めてくる。悪魔だの魔女だの鬱陶しいし、こんな子供まで殺すのかとか言われたところで当然殺す以外の結果はない。若かろうが年老いていようが男だろうが女だろうが関係はない。

 ただ、殺す時にはしっかりと子供から殺すようにしている。孤児は守らなくちゃならないからな。親が生きていて、捨てられた訳じゃないのなら孤児じゃない。だからこそ親が死ぬ前に子を殺してしまえばヘスティアの神としての在り方に影響は出てこない。

 それに、有害な放射能をばらまいておいたから例え生きていたのが居たとしても結局死ぬ。何しろヒュドラの猛毒と変わらんものだ。この時代の人間が耐えられるようなものじゃない。

 だが、それでも念には念を入れてしっかりと周囲を焼き払っておく。縁を辿り、この村に関係のある存在の魂にも呪いを仕込んでおく。この村に近付くだけで皮膚に火傷を負い、離れれば治るように。この村から逃げ出そうとした存在は、魂から焼かれるような痛みに悶えながら野性動物に食い殺される事だろう。

 これで、報復は終わりとしておこうかね。

 

 ……しかし、悪魔か。また変な属性が着いたな。焼き捨てておこう。

 

 


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