暗殺はあまり良いものじゃない。だが、未来を考えればああした方が俺にとっては都合が良かったし、俺以外の神格の多くもそうした方が良かっただろうな。少なくとも、消滅までの時間はまず間違いなく延びているだろうし。
ありとあらゆる自由意思を持つことを許されず、神の望むままに理想の王として在り続け、その最期の時、死すらも神によって決められた形で迎えることになる。俺が殺したのでその点においては変わらないが、殺したことによってソロモンの人生にレールを敷いた聖四字の神の思惑だけは外してやることができた。聖四字の神はあれでかなり思考がえげつないからな。二つに割ってもなかなかえげつない。世界の全てを作ったと言う自負がそうさせるのか、それとも子供のような無邪気さがそうさせるのか……。
まあそんな訳でソロモンを暗殺したが、後の時代でよく知られていた72柱の魔神と言うのはどうやら存在していないようだ。まあ、ある意味では当然だ。この周辺の神格を悪魔に堕とした物が悪魔や魔神とされている存在の殆どを占めているのだが、多くはウガリット神話等の……簡単に言えばメソポタミア神話群の神格の物なのだ。
ギルガメッシュはやろうとすれば神格殺しくらいならば十分に可能なだけの実力を持っているし、カレーによって健康を維持できる神格達は遊びではない戦争においては余程の事がなければ決着がつかないまま終わってしまう。要するに、全能と言ってもこの世界の中では若い部類に入る聖四字の神では衰退しきったメソポタミア神話群の神格ならともかく、未だギルガメッシュと言う偉大な王に率いられ、神格が衰退しなかったお蔭で神秘を色濃く残したままのメソポタミア神話群を押し潰すようなことはできなかったと言うことだ。
その上、ソロモンのすぐ近くにはギルガメッシュが居た。ソロモンがどれだけ優秀であり、どれだけ神の援助を受けていたとしてもギルガメッシュから民を奪い取るほどの事はできなかったし、戦いとなればギルガメッシュとエンキドゥの二人を相手にするだけで国の全てをかけなければいけないし、そもそも凄まじい濃度の神秘に浸されたまま育ったウルクの民は、一人一人が天使にも匹敵しうるだけの実力があった。戦争を仕掛けて勝てるはずがない。
だからこそのソロモンであり、神秘の奪取だったのだろうが……それをやられると俺も困る。だから殺した。復活すらできないように、跡形もなく。
……できることならば、神が手を出さないで済む世界がいいんだが、他の神が阿呆なことをすると手を出さざるを得ないから面倒臭い。もう少しなんとかならないかね? ……ならないからこうなってる? 知ってた。