俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、英雄に遭う

 

 ケルト神話。はっきり言って頭のおかしい連中しかいないようなバトルジャンキー共の巣窟だ。多いに喰らい、多いに戦い、そして多いに女を抱く。そんな戦士たちばかりの脳筋の世界。まったく、もう少しまともな世界にしておけと言ってしまいたいところだが、俺にも俺自身がかなり異端な神であると言う自覚がある。俺にできるからと言って他の奴にできるとは限らない。そう言うものだと認識し直した。大丈夫だ、問題ない。

 それに、そういった獣の論理ってのは分かりやすくて良い。強ければ生き残り、弱ければ死ぬ。戦場での生き死にを普段の生活に持ってくるような事をせず、死んだのはそいつが弱かったからと納得して見せる。

 ……納得できたからと言って復讐に走らないかと言うのはそれはまた別の話。復讐を行うこともまたそいつ自身の自由として行動してくるだろう。面倒なことに。

 

 ケルトと言って思い出すのは、やはりクー・フーリンだろう。ケルト版ヘラクレスと言われたりもする豪傑で、ヘラクレスと並び立てるほどの逸話を持っている。一部人間じゃないような物もあるが、それはまあ神話の英雄なら当然だ。人間らしい力しか持たない神話の英雄とかそういない。

 だが、時代的に未だクー・フーリンは産まれていない。あと三百から五百年ほど待たなければその時代にはならないのだ。俺のケルト神話の知識はクー・フーリンの事がほとんどで、後は世界の外側に存在する影の国のことやフェルグスと言うカラドボルグを振るう男の存在、フィン・マックールと言う騎士団の団長と当時の騎士団にて二剣二槍を使って最強と呼ばれていたディルムッドと言う男の悲恋の話くらいしか無いからな。

 ……ああ、あとアーサー王伝説も一応ケルト領域だから、ブリテンの赤き龍と白き龍のことも含めよう。なんにしろ大して知らないって事だが。

 

 そして、もう一つ重要なことがある。ケルト神話における数々の英雄の師であるスカアハは、ルーン魔術を得手としていた。それはつまり、北欧神話との関連を示す物でもあるのだ。

 世界を枝に成らせる大樹ユグドラシルと、その樹に住む神々の神話。それこそが北欧神話であり、その頂点に存在している主神オーディンが自らの片目と引き換えにして手に入れた知識の中に存在していたものがルーンである。

 そのルーンを何故ケルトのスカアハが使うことができるのかはわからないが、実際に使えているのだからなんらかの繋がりがあることは間違いない。どんな繋がりかはわからないがな。

 ……しかし実力のある脳筋ってのは厄介だな。さっきから撥ねても撥ねても沸いてくるし、猪が並走していなかったらもっと面倒なことになっていたかもしれん。どこから出てきたのかはわからんが、いい子だ。トゥルッフ・トゥルウィスの嫁に来ないか?

 ……来ないか。残念だ。

 

 数々のルーンを背負い、剣や槍といった刃物を防ぐ毛皮を持つ猪。トゥルッフ・トゥルウィスと十分に見合うだろう存在だと思ったんだが、一方的になにかをする相手は敵対者とアホなことをした身内だけでいい。見ず知らずの相手にそういった事をするのは気が引ける。

 無論、あちら側からやって来たら容赦はしないがな。ホヒ(仮)のように。

 

 ん? 今撥ねた奴、そこらの奴よりも大分頑丈だったな。有名な奴だったのかもしれん。撥ねられても原形を留めていたようだし、逸材かもな。

 

 




 
 撥ねたのが誰か? さぁ?

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