俺は竈の女神様   作:真暇 日間

220 / 330
ホヒ(仮)、加速する

 

 自分に足りないものがわかった。私にはとにかく知識が足りない。経験が足りない。才能はあるって言われたけれど、その才能を活かすための道具がない。

 そういうことで今日は魔術書を沢山読むことにした。まずは眠気覚まし用にすっごく辛いカレー粉を練り込んだナンを作ってもらって、それから書庫に篭ってひたすら本を読む。今まではあまり真剣にやってこなかったこの作業だけれど、お師匠サマの千年輪が奪われてしまった以上、お師匠サマに千年輪がもう一度与えられることは無いだろうし、私が取り返さなければお師匠サマの意思を継ぐこともできなくなってしまう。

 千年輪には邪念が宿っている。らしい。その邪念は装着した本人だけではなく、周囲にまで影響を及ぼすくらいに強い。らしい。

 なので、千年輪だけは強力な魔術師がしっかりと封印しなければ危なくて使えない。らしい。

 

 ……実際にはお師匠サマが言っていたことだからわからないんだけど、とにかく強い魔力を持っていないと千年輪に操られるようになってしまうかもしれないらしい。怖い怖い。

 そんなことにならないように、ちゃんと強くならないと。最近はなんだか色々危なくなってきているみたいだし、力をつけること自体は悪いことじゃあないはずだ。

 力なんて物は使いよう。使い方によって善にも悪にもなる。きっとそんな感じなんだろうね。よく知らないけど。だって私、力を手に入れたのなんてかなり最近のことだし、力についてのちゃんとした考察なんてこれが初めてだもの。

 カレー・マジシャン・ガールおすすめのカレーパンを食べると、なんだか頭の回転が早くなって行く気がする。それに味もかなりのもの。これが私のお小遣いでいくつも買えるだなんて、あの人には頭が下がるね。ほんと。

 

 そんなわけでカレーパンをもぐもぐしながら本を読んでいるんだけれど、どうしてか周りが変に静かだ。それに、なんだかここに何日も何日もいるような気すらしてきた。

 理由? そんなもの、周りを見てみればわかる。私以外の全てが、とてもとても遅くなっていた。王も、神官セトも、神官アクナディンも、誰もが。

 

 ……撤回する。お師匠サマとカレー・マジシャン・ガール、そして神官シャダはいつもと変わらず見えた。身体の動きはゆっくりになっていたけれど、私が近くに行くとそれを目で追いかけたかと思ったら普通に動き出した。だから、多分これは周りが遅くなっているんじゃなくて、私が速くなっているんだと思う。

 つまり、この状態ならいつもの何倍もの速度で色々なことができるんだね。たくさんたくさん物を覚えることだって、きっとできるだろう。もしかしたら、カレー・マジシャン・ガールはこの効果の事を知っていてあのカレーパンを私に勧めたのかもしれない。

 色々と納得できたところで書庫に戻って、カレーパンを食べながら書を読み進める。カレーパンを食べている手は油で汚れてしまっているから、ページをめくるのも魔法でやる。……自分が速く行動しているってことを忘れて手でページをめくろうとしたら破きそうになったから慌てて魔法でめくるようにしたわけではない。

 ……そう言えば、この状態であのカレー屋さんに行ったらどうなるんだろうか。ちゃんと接客してもらえるんだろうか。普通に接客するどころか楽々と速度で追い抜かしてから慌てて速度を緩めて私と同じくらいの速度に合わせてきそうな気がする。

 

 ただ、この状態だと空気が身体に纏わりついてくるように重い。あまりに速く移動しているせいだと思うのだけれど、これももっと鍛えれば気にならなくなるのだろうか。あるいは、お師匠サマのようにそれ専用の魔術を作ってしまうというのも一つの手段ではある。

 ……どちらにしても、もう少し頑張らないとできないんだけれど。

 




 
 今日のバクラ

(ギャァァァァァァァァ!ナメクジが!全身をナメクジがああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。