俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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盗賊王、独白する

 

 千年輪の邪念と知識を吸収しているうちに、あることに気付いた。それは、千年アイテムそれぞれの特殊な効果のことだ。

 共通する能力には石板の神殿から魔物を召喚して使役することができる能力などがあるが、固有の物としては千年輪ならば意識を形あるものに込めることができるように、千年アイテムにはそれぞれ得意な能力がある。

 千年錠ならば他者の心の内を覗き、ある程度好きに書き換えることができる。

 千年錫杖ならば魔物を封ずることに長け、千年秤ならば二体以上の魔物や精霊を融合してより強い魔物を呼び出すことができる。

 千年首飾りは未来を見る力を与え、千年眼は様々なものを見通す能力を持ち、そして千年錐は唯一神と呼ばれる三体を召喚する権利を得ることができる。

 これだけ聞くと千年アイテムは素晴らしい物のように思えるが、便利な道具にはそれなりの反動が付き物だ。千年輪はそれが顕著で、物に意思を込める能力が常に発動して装着した者の心に悪意を植え付ける。それに耐えきれなければ邪念によって肉体は魂ごと焼け落ちる。

 それは、ゾーク・ネクロファデスが千年アイテムを作る時に始めに作り始めたのが千年輪だからだ。千年輪を作ることによってゾーク・ネクロファデスは冥界の外に自身の端末を作ることができ、さらに千年輪を通して自身の念を様々な物に与えることができる。他の千年アイテムも、様々な形でゾークの復活を助ける仕組みになっているのだ。

 錫杖は他者が召喚した魔物を問答無用で封印する能力を持つことで、持ち主を力に酔わせる。千年首飾りは未来を見通すことで破滅への未来による絶望を植え付ける。千年錠は他者の心を操ることで全能感を持たせ、破滅に導く。千年秤は自身の裁量に絶対の正当性を持たせることで真実を覆い隠し、嘘を真実と思わせることができる。千年眼は現在の全てを見通すことでまさに神にでもなったかのような全能感を植え付けると同時に、見たくない物までも見せつけることで心を壊す。そして千年錘は神と言う強力無比な存在を操ることで絶対的な力を持たせる。

 人間とは力を持てば腐るもの。どんな聖人であったとしても、自分に大きな力が宿ればそれを振るわずにはいられないものだ。

 それを振るう時に、大概の奴は理由を付ける。『人助けのため』だとか、『誰かのため』だとか、『力を持っているんだから、誰かが困っていた時には迷わず使う』とかな。たまーに『自分以外のためには使わない』なんてことを言う奴もいるが、そう言う奴に限って『自分がそいつを助けたいと思ったから』力を使う。極々たまにだが、『世界を救うため』なんて理由でそう言う力を振るう奴もいる。

 だが、結局そんなもん世界を救い終わったら存在自体が危険だと言われて殺されるか、飼い殺しにされるかのどちらかさ。やだやだ、人間ってのは怖いねぇ。

 

 だから、俺様は―――私は、力を振るうのに理由を付けない。逆に、力を振るわないことに理由を付ける。

 ここで振るえば面倒な事になるだとか、衛兵がかなり強くて真正面からだと押し切られて死ぬ可能性があるとか、そうやって振るわない理由を付けることで力を振るわない場面をできるだけ多く作っているわけだ。

 だから、私の力を見た者はできるだけ殺してきた。見られる可能性があるのなら、私とディアバウンドとの関わりをできるだけ外に出さないようにして来た。力があると思われなければ、わざわざ関わろうとして来る奴もいない。そして運のいいことに、神官共は私がディアバウンドを外に出している間は心を覗いたところでディアバウンドの存在には気付かない。近くにいればディアバウンドの存在だけはわかるのかもしれないが、私とディアバウンドをつなげて考えるには私がディアバウンドを出す所か、直接命令して操っている所を見る必要がある。

 まったく、良い世の中になったものだ。こんなにも仕事がやりやすい。

 




 
 今日のバクラ

「どこだー? どこだー?」ゴゾゴソ

(臭っ! 水に濡れたまま洗わずに自然乾燥に任せた結果三日ほど続いた霧雨でいつまでもじっとりと湿ったままだった獣の匂いがする!鼻がねぇのになんでだ!?)

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