千年
千年輪は、使用者の意識の一部を封じ込め、ある程度操ることができる。そして、物に染み着いた悪意などを移し替えることもできるらしい。
これを使えば、ディアバウンドが様々な場所に私の思念を仕込んでそれに触れた者に影響を与えることでこの街を邪念で覆いつくすこともできるのではないだろうか。同時に私はその邪念をある程度吸収し、行動に移させないことで神官たちの手で邪念が魔物として封印されることの無いようにすればどんどんと邪念が広がっていくことだろう。
その邪念に紛れれば、俺様……私の行動もまた紛れることになる。神官どもも早々気付けないだろうさ。
上手く行けば、衛兵達にも邪念を植え付けることができるかもしれない。そうなればこっちの物。ゾーク様を復活させるのに利用させてもらおうか。
……おっと、どうやら私の事が神官団に知れたらしい。千年アイテムを奪われたことを叱責されているあの神官と、それを庇おうとしているその弟子が居る。
どうせなら、あの神官にはまだここにいてもらいたい。無能な敵はしっかりと殺すよりも利用できるところで利用しておきたいからな。
となると、千年錫杖を持つあの神官を今ここで叩いておくべきか。あの男はかなり強引な事をする性格に見える。あの男を抑えることができればあっちの神官もしばらくはここに残ることもできるはずだ。
ひっそりと気配を消し、あの神官の足元に蛇の口を開いてから即座に突撃させる。
「! セト!」
「ぐぁっ!?」
……最低でも腕ごと頂こうと思ったが、無理だったか。千年錠を持ったあの神官……厄介だな。
神官団の中でもあいつはかなり強い。あいつ一人が抜きんでて強く、かなり劣る所に今狙った神官が居る。後はどいつも大したことはなく、千年輪を奪ってやった神官がかなり下に……ん?
あいつ、魔力が増してないか? 今の私なら簡単に潰せる程度ではあるが、それでも多少増して一部の例外を除いた神官を上回る程度には強くなっているように見える。
だが、それでも私には届かないし、関係もない。私は即座に蛇の頭を地面に引き戻し、その場を離れる。襲撃した以上、暫くは周囲に気を配るはずだからな。今やったように簡単にはできないだろう。
また、力を増すことに集中しよう。千年輪からの邪念吸収もまだ終わってはいない。これが終わればまた俺様は……私は強くなる。世の中段取り八割だ。準備をして、実行できるときに実行する。それが大事だ。
地上からは『逃げられた』と言う声やこの周囲を探し出そうとそれなりの魔物を呼び出す声がしているが殆どは足音にかき消されているし、そもそもかなり離れた位置まで退避しているディアバウンドを補足するならば迷彩を無視し、壁に潜ることのできる物を呼ばなければならない。そんな魔物が果たしてそう都合よくいるだろうか?
まあ、いないからこそディアバウンドはこうして逃げきれている訳だが。
……さて、それではまた隙を見て千年アイテムを頂くとしようか。千年輪は手に入れた。弱い者から手に入れるならば、千年秤を持つ神官か千年首飾りを持つ女神官が良いだろう。手に入れるのではなく利用するなら、千年眼の老神官も狙い目だ。邪念を入れたからと言って俺様……私と同じ目的を持つわけではないが、それでもあちらの結束を乱して動くようになってくれることだろう。
さあ、また虫のように、蛇のように、影に、闇に潜む時間の到来だ。
今回のバクラ
「……あれぇ? 僕の千年リングどこだろう? またなくしちゃったなぁ」
(チキショォォォォォォォォォ!!!)