俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、妹を纏う

 

 俺は嘘をつくのが苦手だ。演技と言う形で感情などを隠すのは苦手じゃないんだが、相手に嘘をついて動かそうとするのは苦手だ。

 何かが変わったものを今までと何も変わらないように見せるのはできるが、今までと変わらないものをなにか変わったと見せるのは苦手、と言い換えれば分かりやすいかもしれない。結果的に騙すことになるのは変わりないし、いったい何が違うのかわからないと思うかもしれないが、個人的には大分違う。俺も理由はわからないが、違うものは違う。説明はできないがね。

 人付き合いのやり方で言えば、俺は嫌いな相手に対してどうとも思っていないように振る舞うことはできても、そこから一歩踏み込んで好意を持っているように見せることはできない、と言うことだ。

 基本的に嫌いな相手には真正面から嫌いと言うタイプだし、好きな相手には好きだと言えるタイプでもある。まあ、流石に人前で言うのはこっぱずかしいがな。

 

 それはそれとして、俺は今、少し自分の行動の結果によって起きたことを後悔している。ヘラの実使って作り上げた酒だが、少々力を使いすぎてその糖の殆どがアルコールに変換されてしまった。非常に強く、同時にかなり美味いそれは妹たちに好評だったのだが―――ちょっと飲ませすぎた感がある。

 ちなみにまだ小さいハデスには酒になる前の果実水に水を加えて薄めたものを飲ませている。ハデスも喜んでくれているし、これに関しては作ってよかったと思った。

 

 だがしかし、べろんべろんに酔って顔を真っ赤にして潰れてしまったデメテルとヘラが纏わりついてきていて動けないのは困る。非常に困る。片付けをしたいのにできないし、体格から見れば俺よりはるかに大きいからくっついたまま無理やり運ぼうとしたり、引きはがそうとすれば恐らく怪我をさせてしまう。困った困った、本当に困った。

 今はハデスが苦笑しながら恐らく死んだ眼をしているだろう俺の代わりに片付けをしてくれているが―――ああもう酒臭い。何で飲めないのに無理やり飲もうとしたんだ? 強いと言ったのに。

 ……ああ、そう言えば酒を飲ませるのも酒と言うものに触れるのも初めてか。だったら自分の限界がわからないのも仕方ないし、酒に酔うとどうなるのかわからないのも仕方ないと言えば仕方ない。ギリシャ神話において、神と言うのは全知でもなければ全能でもない。全体的に人間を超越した存在ではあるものの、できないことや苦手なことは当たり前のようにあるし、何かをする時に面倒に思ったり、出来心でやってはいけないことをやってしまったり、気紛れに妹の産んだ自分の娘を自分の弟に攫わせて嫁にさせたりすることもある。人間だったら色々とおかしいとしか思えないのだが、ギリシャ神話において近親婚はごく自然に行われていることだし、この時代的に考えれば略奪婚と言うのは自身の力を見せることで相手の親に対して『私はこれだけの力があり、あなたの子供を守ることができます』と言う意思を行動で示すと言う意味もあったため、相手と合意に至った結果としてそういったことをするのであれば神でなく人間であったとしても時によっては無罪とされることさえあったと言う。ギリシャ神話すげぇ。

 

 しっかし、本当にこの妹たちは俺から離れない。いったい何がこの妹達をここまで駆り立てているのやら。乙女としての思考回路が俺に備え付けられているのならば俺にもわかったかもしれないが、残念ながら俺の乙女回路はオミットされているためよくわからん。

 

「姉さん。終わったよ」

「お、ありがとうなハデス。今はちょっとこいつら剥がせないから口で言うしかできんが」

「あはは、いいよ別に。僕にはまだできないことを姉さんにやってもらってるんだし、できることくらいやりたいからさ」

 

 ……いい子だろう? 信じられるか? こいつ、俺の弟で、しかもクロノス(クソオヤジ)の息子なんだぜ?

 

 ハデスはニコニコと笑顔を浮かべ、俺に纏わりついているデメテルとヘラを避けるように俺に身体を預けて眼を閉じた。

 

「……おい」

「……zzz」

 

 寝やがった。それと今気づいたが、こいつも少し顔が赤い。匂いだけで酔ったらしいな。

 まあ、酔ってしまったなら仕方ない。酔っぱらいに理屈は通じないのだから、このまま放置しておくしかない。目に余るようならば実力行使とさせてもらうが、このくらいなら問題ないしな。

 


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