俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、両断する

 

 現在の王から見て一代前、つまり先代の王であるアクナムカノン王の墓を荒らした盗掘者が出たと言う話がホヒ(仮)から出てきた。ホヒ(仮)はいまだに俺の近くに時々現れては愚痴を言ったり苦労話を漏らしたりしつつ小遣い程度で頼めるちょっとした菓子をつまんでいく。他の神官が来たときのために全身を覆い隠すマントのようなものを着ているが、セトを除いた他の神官達が見て見ぬふりをしているのには気付いていないようだ。だからこいつは甘いと言うんだが、まあその辺りは俺が注意してやらなければいけないことではない。師匠であるマハードが何とかしてやらなければいけないことだ。

 注意力の欠如。魔術師としては割と致命傷な気がするが、この世界において多くの場合魔法陣を張って魔法を使うのではなく、なんらかの呪文を唱えることで魔法を使うらしい。だからこそ気を抜いている時であっても呪文の詠唱だけは気にするように習っているらしいが……俺がちょっと聞き齧って唱えてみた呪文にも警戒しなかったので完全に油断し、気を抜いているらしい。

 それと、この話はどうやら墓守の一人が外出していたところに偶然墓荒らしがやってきて墓守の一族の殆どを殺して行ったが外出していたそいつだけは難を逃れ、殺されていた一族の死体を見てから墓を見に行ってみたら荒らされていたと言う事が分かったらしい。

 そして、即座にその墓守は王宮に馬を走らせてこの事を伝えた結果、現在王宮は非常に騒がしいことになっているとか。

 

 心底どうでもいい。

 

「何で心底どうでもいいって顔をしてるの!? 大事件だよ!?」

「どうせあと三千年も過ぎたころにはピラミッドと言うピラミッドは盗掘屋の手で内部の黄金から外壁の化粧石まで丸ごと全部持ち去られて酷いことになるんだからこのくらいで大事件だのなんだのと言われてもな」

「そんなことになるわけない! 王の墓所は絶対に守られるんだから!」

「今回、その守りとやらが抜かれたわけだがその辺りはどうなんだ?」

 

 ぐっと押し黙るあたり、自覚はあったのだろう。ここでまだ騒いだり言い訳をしたりするようだったらここから先の話は聞き流していたところだが、こういう賢い奴なら話をしていて不快ではないから続けられる。俺の周囲にはこうした理性的な奴が多くて助かるな。

 それに、俺が言ったことは少なくとも俺の知る未来においては事実でしかない。俺の住んでいた世界においては盗掘者に襲い掛かる魔物の封じられた石板だとかそう言うのは存在していなかったんだが、それでもこれから神秘がどんどんと薄くなっていくことを考えればそう言った未来も現実味を帯びてくることだろう。

 結果としてはそう変わらない訳だが、もしも俺の知る西暦2000年代までギルガメッシュが生き延び続けたならば、俺の知っている世界に魔法あるいは魔術と言う物がねじ込まれる可能性もある。

 科学と魔術が融合し、人間の中の一部が魔術師あるいは魔法使いとして御伽噺では無く存在することになるかもしれない。

 国家的な資格に霊媒師や占い師と言うオカルトチックな物が入り込み、人間が生きて行く上で数度くらいはオカルト的な事件に巻き込まれたり、あるいは世界的な大事件に魔術師や霊媒師と言った存在が一枚かむことにもなるかもしれない。

 もしも、もしもではあるが、そんな世界が本当にできてしまったとするならば、それはそれでまた面白いことになりそうだ。どんな結果に終わるかは俺にもわからないが、大きな事件も小さな事件にも魔術や魔法と言った物が関わったり、あるいは神秘に触れ続けた人間の一部が変異を起こして超能力的な物を発現させたり、そう言った超能力者的な人間が人類の大部分を占めるようになったりする可能性も十分に考えられる。

 さて、そうなった時、極一部の優秀な人間によって守られている王家の墓の防衛機構と、無数の弱者による波状攻撃と、どちらの方が上回るのやら。

 

 ……まあ、そうなると決まったわけではないんだがな。

 




 今日のバクラ

「……よし、進んだ。このまま王宮に乗り込む日を少しずらして、こいつが王宮にいない日を狙えば記憶の通りに進むだろう。長かった……」
「……ファ!? シャダ強ェェェェェェェェェェェェェェェェ!!? ナンデ!? シャダナンデ!?」

 コユビツブスベシ、ジヒハナイ

「アイエェェハサン!? ハサンナンデ!?」

 パァァァァァン!!

「ケツがぁぁぁぁぁぁぁぁァァッ!!?」

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