俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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200話です。やったぜ。


竈の巫女、店を作る

 

 舌を出し、魔力を込めて、そして世界に向けて囁く。

「『土塊よ、我が声に応えよ』」

 

 俺の言葉に応えるように、周囲の地面が蠢いた。うぞうぞと芋虫が這いずるように蠕動し、ぐにぐにと混ぜ捏ねられ、煉瓦として成形される。言葉だけ……と言うには大分他にも気を使っているが、実質的に言葉を発する以外のことは何もしていない状態で、このようなことができると言うのは中々に面白い。

 魔術、方術、道術等々、魔力や気と呼ばれるエネルギーを使って物理的な事象に干渉する技術とはまた違う。干渉するのは自分自身、そして自分の声とその意味の強化であり、その声を世界に聞かせることで世界の在り方自体を変える。ただし、世界の許す範囲の中で。

 もしも世界の外側でこれを使おうとするなら、恐らく負担の殆どが俺にかかることだろう。言葉の意味を具象化させるならば、ある意味でそれは創造と変わりない。世界の内側で、割とありふれているものであれば殆ど負担無く作り上げることができるだろうが、世界の外側ではそう言った後押しは期待できないからな。

 

「『組み上がれ。箱を成せ。二つに重なり箱を成せ』」

 

 言葉によって作り上げられた煉瓦はまるで焼かれたように硬質化し、組み上がって行く。煉瓦によって作られた壁は漆喰のようなもので塗り固められ、窓と出入り口となる穴がいくつか作られる。そのうち一つは換気扇代わりの通風口で、間違いなく通れないように目の荒い網のようなもので塞がれている。

 内部構造も同じように作るが、カウンター部分は全て石造りで調理スペースにはいつもの竈と大釜を設置する。まるで一枚岩から削り出したような形になったが、実際には一枚岩から削り出したのではなく元からそういう形の岩だったように作り上げたと言うのが正確だ。言霊……とは少し違うが、そうだな、『言葉の重み』とでもしておくか。言霊は言霊で別物だし、言霊使いの真似事ならかつて文字やら文章やらの権能を得たときからできていたしな。

 ちなみにだが、二つ重ねた理由はその間に金属を仕込む為だ。強度を上げつつ違和感を持たせないために内側と外側を見た目普通であるレンガと漆喰のようなもので固められ、ついでに魔力を遮断する金属と凄まじい強度を持つ金属の二つを混ぜ合わせて合金にしたものを使う。そうすることで精霊や魔術を相手にしても多少は持つようになった。

 物さえ用意しておけばある程度の精度で結果を出すことができる『言葉の重み』は便利な技術だ。ただし、これは即席で行うならば使いやすいと言うもので、極めようとするならば自身の手で行うか、あるいは凄まじく細かく指定して言葉を発さなければならない。文章を作ることを苦と思わなかったり、早口言葉が得意だったり、詩の朗読をするのが嫌ではないような奴でなければ使いこなすことは難しいだろう。

 逆に言うなら、それを苦としないならば、あるいは必要にかられればひたすら正確に描写することでおよそあらゆるものをその場に用意することができるわけだ。

 俺のやり方では凄まじく疲れるが、本物の言霊使いならばヘリだろうが列車砲だろうが空中都市だろうが何だろうが問題なく用意できることだろう。才能というのは中々に恐ろしい。

 まあ、だからこそ本物の言霊使いというのは非常に数が少ないのだ。言霊を使うだけならば、それこそ言葉さえ持っていればどんな存在であろうとも無意識ででも使っている。むしろ、言葉に力が宿っているからこそ他者に何かを伝えることができるのだ。完全に言霊の力を使わない存在がいるならば、それは一切の言葉を持たない存在であり、同時に何者とも関わり合いを持とうとしない存在であると言い切れる。

 ボディランゲージ、と言うものがあるように、言葉を使わずに言霊を扱う方法もある。道術や陰陽術、北欧でのルーンなどはある種の言霊を文字という形に落とし込み、それを組み合わせて効果を世界に出す技術だ。魔術の基礎の基礎と言える技術だな。

 

 ……ともかく、店はできた。これから隠蔽術式を込めて、悪意ある存在にこの店が見つからないようにしなければな。従業員を守るのも店主の役目だ。

 




 
 今日のバクラ

「俺様は無駄なことはしねえ。だからこのNPCの修正は諦めた」
「だが!諦めたのは修正することであってなんとかすることを諦めた訳じゃねえ!」
「逆に考えろ!どんなNPCを作っていようが、出さなけりゃいい!存在していようがいなかろうが『物語に出ていなければ』問題ない!」
「どれだけ有能な演者であろうが、出演していないドラマの内容には関われないように!」
「物語の勇者サマが問題があるその時に、その問題に関われないようにすりゃいい!」
「クハハハハハハハ!ヒャアハハハハハハハハァ!」





「……もう出てるから苦労してんだよぉ……」ズーン

 ズーン!

「六法全書ォォォォォォォゥ!?」

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