俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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昼間に一話投稿しています。まだの方はそちらからどうぞ。


竈の女神、眠りゆく

 

 必要な物の多くを作った。衣服を作り、食料を作り、料理を作り、武器を作り、調理器具を作り、畑を作り……少なくとも、ここで暮らしていくには十分すぎるくらいの物を作ってきた。正直ピアノとか必要なかったような気もする。たまに使っているから無い方がいいとまでは言わんけど。

 そして、そうやって作ってきたもののいくつかを弟妹達に引き継いでいった。

 デメテルには畑を。ヘラには楽器と料理を。ハデスには金属の扱いを教え、俺がどうしてもやらなくちゃならないことはどんどんと減っていっている。

 

 だからだろうか。今まで張りつめていたものが急に緩んで、なにもする気がしなくなっている。

 と言うか、今思い出してみたらこの世界にヘスティアとして産まれてきてから一度もまともに寝た覚えがない。消力に失敗して炉の爆発をもろに喰らって気絶したり、太陽炉の前でずっと金属を扱ってたせいで熱さで気絶したり、神としての力やそれ以外の力を使いすぎて回復が追い付かなくなって気絶したり……ろくな意識の失い方をしていない。駄目だこれ。

 

 そう言うわけで、俺は眠ることにした。いったいいつ振りかと思ったが、気絶なら割としてきたがこうして安らかに眠るのは本当に久し振りだ。前世の記憶で最後に眠ったのが……ああ、うん、思い出せない。知識はあるが記憶と呼べる類の殆どが消えているんだった。少なくとも自分がどこの誰だったのかを判断できそうなものは殆ど無い。

 つまり……これが俺の初めての睡眠、と言う所か。デメテルやヘラはちゃんと眠らせていたし、ハデスにはちゃんと昼寝の時間も取らせているが、俺はそうしている間も大概何かをしていたからな。鍛冶やら錬金術やら薬学やら魔法や魔術、道術に方術等々、俺の知識にある雑多な記憶から使えそうなものを引っ張り出して使えるように練習したりな。最近は結界系の術をある程度使えるようになったから空中に見えない炉を作ることもできるようになった。

 ……もしかしたら、俺の背が伸びていないのは成長する時に眠っていなかったのも原因のひとつかもしれないな。精神的にはデメテル達より年上である自信はあるが、外見的には明らかに俺が年下に見られてしまう程度に差があるし。

 さて……考え事はこの辺にして……寝るか…………。

 

 おやすみ。

 

 

 ~時間経過中~

 

 

 ……かっ、は、ぁぁぁ……ああ、まったく、よく寝た。どれだけ寝たのか見当もつかないくらい良く寝た。普通に考えれば寝ている時の時間経過がわからないと言うのはごく自然なことなんだが、それはどうやら神になっても同じことであるらしい。

 感覚的には九時間ほどがっつり寝た感じなんだが、あくまで人間だったころの感覚と照らし合わせているからな。神としての感覚と人間としての感覚を一緒にしてはいけない。ちょっと寝るだけのつもりが一週間過ぎていた、と言う事なんて、神話の世界にはごくごく当たり前のことだからな。

 さて、それじゃあしっかり休んだことだし、またできることをできるだけやっていく生活に戻るとしようか。不眠不休でやっていたから疲れが溜まったのであって、適度に休みを入れながらならばそう言う生活をするのは吝かではない。むしろ結構好きなのだ。

 しかし、そうなると俺は求道側と覇道側のどちらになるんだろうな? 適性は間違いなく求道側だと思うが、神としての在り方は求道と覇道が混じり合っているんだよな。

 自身の道を歩み、進むことを目的とする求道。

 他者の道を飲み込み、巻き込んで大きくなることを目的の一つにする覇道。

 俺自身は割と求道側。しかしヘスティアと言う神の適性はやや覇道に寄る。孤児や家族のために様々なものを巻き込み、その道を自分の道へと一時的にであろうが束ねて進む。無論、ヘスティアの在り方として一度纏めていたとしても本人達が自分の力で歩いて行けるようになったらあとは当人たちの意思に任せることになりそうだが。

 

 求道と覇道……まあ、俺は俺の道を進んでいく事にしよう。助かりたい奴は気が向いたら助けてやるとして、基本的には自分達の努力によって自分を助けようとしてくれた方がありがたい。

 自立は大事だからな。うん。

 


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