竈の女神、成長する
クロノスという神は、ある予言を受けていた。その内容は、いつの日にか自身の子によって立場を奪われるというものであったらしく、性交を好み、妻であるレアーとの間にヘスティアー、デーメーテール、ヘーラー、ハーデース、ポセイドーン、そしてゼウスといった神を作っていたにも関わらずその予言が実現しないようにと自身の子を飲み込み、成長させないようにしていた。
しかし、妻であるレアーによって末の子であったゼウスの代わりに石を呑み、ゼウスは隠されて成長し、そして成長したゼウスは父であるクロノスを打倒して兄弟たちを呑まれた逆順で吐き出させた。
その際、クロノスの腹の中で何の経験もすることができなかった兄弟は赤子のまま再びこの世界に産まれ直し、世にも珍しい『産まれた順番と年齢が真逆の兄弟』と言うものができたわけだ。
……そんなわけで俺は今、クロノスの腹の中にいる。別に時間が止まっているわけではないが、代わりに時間の流れ以外の物がほぼ何も存在しない。
確かに何も知らない赤子がこんなところにいきなり放り出されれば何の経験も積むことができないまま時間だけを浪費することになるだろう。自身の力の事などを知っていれば色々と鍛えたり考察したりができるかもしれないが、普通は無理だ。
さて、ここでひとつおさらいをしよう。
俺は今、ヘスティアと呼ばれる女神の身体と力を持っている。精神的に円熟しているとは言いがたいが、それでもある程度成長していることは間違いない。つまり、ある程度ヘスティアとしての力を扱うことができるわけだ。
ヘスティアは
今回使うのは、炉の女神としての一面。燃え盛る炉を、神の力で顕現させる。これには正確なイメージが必要で、余程の天才か馬鹿であった方がやりやすいのを確認している。だからこそ力の強い神はちょっと人間的に見るとおかしい奴ばかりなんだなと納得できてしまうほどに。
世界最大の炉。俺が人間であった時には非常に身近な存在であり、同時にけして手の届くようなものではなかったが、俺はその存在をよく知っている。
質量にして地球の万倍以上。体積にして億倍以上。熱量は地球を千度塵に変えても有り余るほどに有る、太陽系の中心に位置する超巨大な核融合炉。
クロノスは巨神だ。しかしそれは地球の大きさを越えはしないし、太陽に比べればダニやミジンコとそう変わらないサイズでしかないだろう。
まあ、当然だが竈の女神だからと言って太陽の完全再現なんぞできる気はしない。と言うか現状でわざわざ完全再現なんかする意味もない。したら多分俺も死ぬ。未熟だからな。
しかし、それでも太陽は太陽だ。大きさが万分の一であろうと、宿す熱量が千分の一も無かろうと、地球を焼き払うに困ることはない。ただ、いくら体内から焼くとしても距離や頑丈さの問題で外側のクロノスが焼けるよりも俺が焼け死ぬ方が早いだろう。
さあ、こんな時こそ昔とった杵柄。数多くの小説や漫画を読んで得た知識と、厨二病的な感性の使い所だ。
まず、俺は竈の女神様。竈が竈であるためには、内側で燃える炎の熱に負けないようになる必要がある。じゃなければ崩れ落ちて竈じゃなくなるからな。その神だと言うのだから、俺は自身の作った竈の中の熱には耐えられるだろう。無傷で済むとは限らないが、それでも耐えられて当然だ。耐えられないようなものは炉とは言わないからだが、だからこそ俺は耐えられる。今は無理かもしれないが、今すぐに成長して実行するつもりだ。ここ、なんか臭いし。
次に、神としての力を自覚し、自身の意思でより効率的に使いこなし、より強くなることが必要だ。今のままでは外側のを殺しきるような火力を出すのは苦労するだろうし、ある程度法則があるならそれを使った方が扱いやすい。神が存在するなら悪魔だっているだろうし、そういった存在がいるならば魔法もあっておかしくない。まあ、ここがクロノスの体内だということもあって使うのはかなり難しいことになるだろうが、逆に言えばこの場所でそれだけの事ができるようになれば十分な実力を持っているに等しいと言える。
よし、それじゃあ早速成長するとしようか。外側の