俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、拾う

 

 白い肌に、青の瞳。ただそうであると言うだけで差別が起きるかもしれないと言う俺の予想はどうやら正しかったらしい。今、俺の前にはただそれだけの理由で迫害され、暴力を受けている娘が一人存在している。

 たったコップ一杯の水も、残り物の固くなったパンの一欠片すらもその娘に与えてやろうとする者はおらず、かわりに娘に向けられるのは投擲された小さな石と泥の混じった汚い水。そんなものばかりだ。

 だが、それでもその娘の心の内は輝いている。今は厚い雲に覆われていても、その奥底には白く輝く何かが存在していた。

 

 ……見ているだけと言うのも気分が悪いし、一応できることはやってやろう。神としての(ヘスティア)は人間を直接的に救ってやることはできないが、人間である(ベル)が他人を救うことにはなんら問題も条件もありはしないからな。

 さて、俺のステータスを確認した時、恐らくいくつか効果のわからないものがあったことだろう。俺自身使ってみなければわからなかったものがいくつかあったし、使ってみてすらわからなかったものもあったのだからおかしなことではない。

 これから使うのはそのうちの一つ。特殊アビリティ『大殺界』。その効果を一言で表すならば『威嚇結界』とでも言えばいいのだろうか。

 殺意やら何やらを総動員して行う威圧。人間の身でありながら一部の神すら凌駕しうる圧力をかけることで相手の行動を阻害する。

 問題は、俺を中心としてしかその結界を張ることができないために離れれば離れるほど効果が弱くなることと、範囲内ならば無差別に効果が出てしまうと言うことだが、現状ならばまあ問題ないだろう。

 ……強く張りすぎると植物が枯れたり小動物が発狂して自殺を始めたり、それどころか殺意を浴びただけで身体の方が死んだと勘違いして生命活動を止めてしまったりするが、人間ならば今のところ死んだと勘違いしても泡を吹いて気絶するだけで済んでいるし、大志を抱く存在や強い心を持っていたりすれば更に効果は下がる。もう少し使い慣れれば結界の形を変えたり俺を中心にしないでも結界を張ることができそうだが、今はこれが限界だ。出力ばかり上がってしまい、精密な動かし方はどうにもできそうにない。

 と言っても、現状それを気にすることはない。普通に使い、その場に居る奴等を丸ごと殺意で押し潰す。一部呼吸が止まって喉をかきむしっている奴も居るようだが、知ったことではない。

 ほぼ意識を失っているように見える娘を拾い上げ、マントの替えを着せて肌を隠す。俺より身長が大分高いようで、全身を隠すことはできていないのだが……太股辺りまでしか隠せていないさっきまでの姿よりは大分ましだろう。

 白人が、この太陽の下であの姿は辛かろう。俺は身体能力が一般人に比べて遥かに高いからよくわからんが、昔聞いたところだととにかく痛いそうだ。

 なにしろ日焼けってのは火傷とそう変わらない。そして白人は日焼けから肌を守るための色素が無いか、あったとしても非常に薄い。太陽光からの防衛機構が十分に働くことがないわけだ。そりゃあ痛かろう。

 

 そう言うわけで、暫くこの娘を預かることにした。流石にこの町の住人を皆殺しにする訳にもいかないし、かと言ってこいつらの差別意識をどうこうできるような権力も無いしな。

 洗脳すれば早いかもしれないが、俺にはそう言った技術も権能も存在しない。元々持っている感情を煽りに煽って肥大化させることくらいしかできはしない。この状況でそれをしたところで現状が良い方向に向かうことは考えにくいし、良い方向に向けるには労力がかかりすぎてはっきり言って面倒だ。

 そう言うことで、暫くこの娘を人目から隠す方向で動くとしよう。その後の事はまたその後考える。

 

 




 今日のバクラ

「右足包帯よし、左足包帯よし、両足安全靴よし……修正開始d」

 バシャアッ!

「アツゥィ!」

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