「くっ、殺せ」
「わかった」
「ごめんなさい嘘です殺さないでくださいお願いしますなんでもしますから」
手首にエンジン付きのモーターでも仕込んでるんじゃないかと言うほどの凄まじい速度の掌返し。というか起きてからの第一声がこれっていうのはいったいどこの誰に育てられたらこういう奴ができるのやら。
顔だけ見れば十分美人だってのに、残念な奴だ。
「あっ、その顔はわかるぞ! さては私の事を残念な奴だと思っているな?」
「当然思ってる」
「手厳しい!」
単なる事実だ。まったく、いったい何がどうなればこういう奴が出来上がるんだ?
それに、さっきはあまり気にしていなかったがこいつの出した魔物はどっかで見たことのある姿をしていたしな。カードの中で。確か、ガガガガール? だったか? あの顔はいくつも似たような顔があるからよくわからん。そもそも一瞬で破壊して除外したからしっかりと見たわけでもないしな。
まあ、じゃあ約束通りに言う事を聞いてもらうとしようか。
「ところで、決闘前にした約束は覚えているな?」
「……はい」
「では一つやってもらいたいことがある。拒否権は無い」
「ま……まさか、私の身体が目当てkいったぁ!?」
「阿呆。わざわざそんなことに絶対服従が確約された命令権を使うわけが無いだろうが。第一もしも俺がお前を抱いたら色々な意味で余計に離れなくなるだろうに。試すか? ん?」
「ほえんふぁふぁい! ふぉえんふぁふぁい!」
「何言ってるか聞こえんなぁ。と言うかそもそも名前を聞いてない。誰だお前」
「ふぁ! ふぉうひへばふぁもっへはい! ははひえー!」
「なに? 『抱いて』? そこまで言うなら仕方がないな」
「ひはうーーーーーー!」
ああ、人を揶揄うのはとても楽しい。ほどほどにしておかなければならないというのはわかるが、それでもやはり楽しい。特にこういうからかい甲斐のある人間相手だと余計にそう思う。
それに、今回の事はこいつの自業自得だしな。最悪、見ず知らずの奴に未来永劫絶対服従を要求されて奴隷商に売り払われたりと言う可能性もあるのだから、もう少し気を付けた発言をしてもらわないと困る。
「で、お前さんの名前は?」
「ひひはいははこえははひへ!」
「いや、このまま言え」
「ほひ! はふは!」
なるほど。鬼か。悪魔か。なるほど。ではそのようにしてやろうではないか。
「わかった。ホヒ・ハフハだな。奇妙な名前だな。ホヒ」
「ファッ!?」
「自分で名乗ったんだろう。なあ、ホヒ」
「んぐっ……ぷはっ! 違うよ!? 私の名前はそんなのじゃなくて―――」
「聞こえんな」
ということで、こいつの名前はホヒと言うことになった。どうしてこんな名前なんだろうな。
と言っても、エジプトでの普通の名前なんてのは俺は知らないし、普通にこんな感じの名前があってもおかしくはないだろう。日本語で考えるからおかしいことになるんだ。そこの言葉で考えればそんなでも無かったりするはずだ。
さて、名前も聞いたし決闘前から決めておいたお願いをするとしようか。
「それじゃあ、悪いんだがお前はこれから俺の旅の案内役になってもらう。この国は初めてでな。色々と見所がある場所を教えてくれや」
「……え、それでいいの?」
「ああ。ちなみに案内役をしている間は三食付くぞ」
「やらせていただきます! よろしくお願いします!」
やはりこの娘の手首にはモーターが内蔵されているに違いない。本気でやればドリルナックルとかもできるはずだ。男のロマンにはドリルナックルとロケットパンチを合わせた技があるらしいが、それは普通にロマンだな。素晴らしい。
ロマンの元になった言葉はローマらしいが、そのローマには俺も多少の関わりがある。ローマだからと言って忌避するようなこともない。一部はローマ大嫌いな奴もいるらしいが、俺は嫌いではないしな。
人間の営みとして、必要な物だ。ある意味な。
竈の女神様の番外編を投稿しました。前に言っていたすわかなです。
あ、それと、『俺は竈の女神様』の原作はダンまちです。良いね?