俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、食わせる

 

 結局、スフィンクスに乗ってきた見知らぬ誰かが目を覚ますのと俺がカレーを作り終わるのはほぼ同時になった。最後の味見をしたところで突然起き上がったのだから、同時と言って差し支えないだろう。

 そして辺りをキョロキョロと見回したところで、ぐぅぅ……と大きく鳴く腹の虫。ちょうど俺と目があったところで起きたそれに、見知らぬ誰かは赤面して俯いた。何やってんだか。

 まあ、空腹は良くない。腹が減っているというただそれだけで世界の多くは上手く回らなくなるのだから、間違いなく空腹は良くないことだと思える。俺はギリシャ神話一人間に近い思考回路を持った神格だからな。行動がそれに伴うとは言ってないから変に勘違いされることも多いんだが。

 腹の虫を黙らせるためにか両腕を使って全力で身体を抱きしめている誰かさんの前にカレーの皿を一つ置き、俺も食事に入る。ついでにスフィンクスから向けられる視線があれだったので食わせてやったら気に入られた。好みだったらしい。

 

「もむ、もむもぐもむ」

「口の中身が無くなってから喋れ。米一粒、ルー一滴でも零したら毎夜毎晩食材にされて食われる夢を見る呪いをかけてやる」

「……」モグモグモグ……

 

 よろしい。初めからそうしていれば俺も怒りはしない。せっかく作った物を無駄にすることは良くない。そうすることに何か意味があるのならばともかくとして、意味がないにもかかわらず無駄にされると殺意すら湧いてくる。

 ちなみに、俺の言葉に反応したのかスフィンクスの方も食べ方が丁寧になった。具体的にはスプーンを使い始めた。あの前足で一体どうやってスプーンを掴んでるんだ? 不思議なこともあるもんだ。

 ……蠍と言えば、黄道十二星座には蠍座が存在していたな。十二支は揃えたし、今度は十二星座も揃えてみるか。いくつか難しいのもあるが、その辺りは似たような別物で代用しよう。十二支の方も虎はキメラで代用したしな。今思えば白虎とかそう言うのでもよかった気がするが、まあそこはそれだ。

 名前についてはもう王道で、クリオス、タウロス、ディデュモイ、カルキノス、レオン、パルテノス、ジュゴス、スコルピオス、トクソテス、アイゴケロス、ヒュドロコオス、イクテュエス、で良いだろう。十三番目の蛇遣い座? 知らんな。ギリシャではオピコウスと言うらしいが、実の所この星座もいくつか存在していなかったりするんだよな。

 具体的に言うと、海蛇座と蟹座、獅子座、龍座は存在していない。それらの父親であるテュポーンが存在していないのだから、星座となるその物の前身が無い事となる。そんな物が星座になる訳もないと言う事だ。

 他にもいくつか存在していないはずだが、詳しくは知らん。天文に関しては俺ではなくアストレアあたりの領分だしな。

 

 それと、これはちょっとした豆知識だが、フォーマルハウトは水瓶座のすぐ近く、水瓶座が瓶から流している水(と言うか酒)を呑み込んでいる南の魚座に存在している。だからどうしたと言う話だが、ネタとして覚えていて損はない。そして、南の魚座はアフロディテ、あるいはヴィーナスの化けた姿だとも言われている。

 まあそう言う訳で、秋の日に呪文を唱えてはいけない。決して。創作とは言っても言葉とは力を持つ。人間一人一人の言葉に宿る力は弱くとも、数十数百と纏まれば何かの間違いで届いてしまうかもしれない。

 決して、口にしてはいけない。あの呪文を。

 

 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ くとぅぐあ!

 

 決して、この呪文を口にしてはいけない。実際、俺も口に出してはいないしな。これで万が一にも本当に出てきたらいくら俺でも少々きついかもしれん。世界そのものをいくらでも焼き尽くすことのできる邪神とか、相手にしてられるかと。

 

 


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