俺は竈の女神様   作:真暇 日間

186 / 330
竈の巫女、調理中

 

 暫く走ってから一休みしていたら、遠くから見覚えのあるスフィンクスが走ってきた。見覚えがあるといっても俺はスフィンクスを見ること自体がこれで二度目なので、同じ個体なのかそれとも個体が違ってもこういう形態なのかがわからないのだが、まあおそらく違う個体なのだろう。知らんが。

 そのスフィンクスは俺が休んでいる前で止まると、その場でゆっくりと伏せの体勢になる。すると、その背中から頭の上を通って何かが……いや、見知らぬ誰かが転がり落ちてきた。

 

「……きゅう」

「……加速に耐え切れなかったのか、それとも必要以上に気を張っていたのか知らんが、まあご苦労なことだ」

 

 見知らぬ存在がいきなり目の前に現れるのはそこそこ経験があるが、今回のはその中では大して記憶に残るようなものではない。一番記憶に残っていたのはアポロンで、うとうとしていたところにいきなり顔が現れて身体をまさぐってきたのでついついかなり本気でぶん殴ってしまったのだ。掃除が大変だったが、適当にミンチになった肉を一か所にまとめて放置しておいたらいつの間にか復活していて、生命の神秘というものを久しぶりに味わった。

 ちなみにその後、アポロンは俺を認識すると半狂乱になるようになった。カレーを顔に叩きつけると治るから気にはしてないがな。

 

 そう言う事でそこまで印象に残ることもなかった見知らぬ誰かを放置して、少々疲れているらしいスフィンクスに水を飲ませてやる。スフィンクスの主食は人肉のはずだが、まあ別に構わないだろう。それに、一度食べれば数週間は持つと言う凄まじい燃費の良さを誇っていたはずだ。砂漠だし、そう簡単に餌が来るわけではないから仕方ないと言えば仕方ないかもな。むしろしっかりと砂漠と言う環境に適応していると言える。

 そんなスフィンクスを駆るこの人間に、少しばかり興味が出てきた。人間でありながらスフィンクスとそれなり以上の関係にあると言う事は、恐らく王族あるいは王族に由来する人間なのだろう。そうでなければただひたすらに美しいだけのなんでもない存在か。

 まあ、そんなクレオパトラのような存在が早々いる訳もないし、例えクレオパトラがここにいたとしてもそこでぐったりしているとは思えない。

 さて、それではカレーを作るか。このよくわからないどこかの誰かさんが起きる前に作っておいて、起きたら即行食べさせられるように。寝起きのカレーは胃に来るが、俺の作った場合はそんなものは関係ないからな。来たとしても即座に治る。便利なもんだ。

 

 砂漠のど真ん中でカレー……あまり良いとは言えないかもしれないが、食えるだけ幸せだと思ってもらおうか。実際にはそう言う立場にいるのかどうかは俺は知らんがな。

 砂が入ってこないように結界を張って、簡易的な竈を作ってその上に大釜を乗せて調理開始。出てきた材料を切って炒めて煮込んでいく。この辺りには生き物がいないから仕方ない。もしも何かいたりすればそれをご当地風として使ってもいいんだが、あいにくと蠍くらいしかいない。油で揚げれば美味いんだがな。蠍。量が居ないから大釜で使うには不適切だ。だからこれはサラダのような付け合わせにでも使うとしよう。少なくとも不味くは無い事を保証しよう。美味いかどうかは人それぞれだがな。

 本当にやばい料理と言うのは、美味い不味いでは無く食える食えないでの話になって来るからな。それは料理じゃないと言う話もあるが、そんなものは俺に言われても困る。作った本人に言ってやって欲しい。言えるなら、の話だが。

 

 ……ヘファイストスの初めて作った料理(?)は、あれは凄かった。少なくとも、俺はあの味は忘れないだろうな。何があっても。忘れたくとも。

 

 




 
 イアソンは追い詰めると英雄らしくなるらしい。それを初めて聞いた時、いつでも追い詰めておかなくちゃと思った私は悪くないはず。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。