俺は竈の女神様   作:真暇 日間

185 / 330
ソロモン〇しに行ってきます。


竈の巫女、駆ける

 

 砂煙を上げ、砂漠に直線を引くようにして駆け抜けていく一台のバイクがある。俺の乗っているロードローヴァーである。

 旅行用にと燃費と積載量をガン上げし、さらに何度も何度も手入れが必要になるようでは旅行を楽しむことができなさそうなので基礎部分は非常に頑丈に、かつ摩耗にも強くしてある。

 そして今回は砂漠を走らせるためにちょっとした特殊機構として、魔力を使って道を作るようにしておいた。周囲の魔力を取り込み、道として一時的に固めて、通ったら散らすと言うとてもエコな機構だ。燃料はやはり太陽炉からなので燃費は少々悪くなったが、無いまま砂漠を走らせると流砂でもないのに全体が沈みかねないからな。仕方ない。

 

 で、今正に走っているわけだが、どうにもおかしい。具体的には盗賊のようにも見える存在が多すぎるように見えるし、ついでにその盗賊らしい奴を追いかけて狩り尽くそうとしている人の顔と鷲の翼を持った獅子のような体をした怪物が追いかけ回し、ついでに人間の方もなんとかしようと魔物を出して戦っているように見える。

 エジプトってのはどうも非常に人外魔境じみているらしいな。こんな存在が街を離れると当たり前のように闊歩しているとは、ギリシャより危ないんじゃないだろうか。俺の庭は除く。

 で、そんな奴らは俺のことを見つけたのか、あるいはロードローヴァーの上げる砂煙でこっちの存在を見つけてあの怪物を擦り付けようとしているのかは分からないが、こっちの方に近付いてきている。明らかに助けを求めてと言う感じではないことは確かだな。

 

 そう言うことで俺はそいつらを無視してアクセルをふかす。速度が上がり、前輪が浮き上がれば後はそのまま後輪も浮かせて空へと駆け上がる。そんな俺のことをぽかんとした表情で見上げる盗賊らしき集団と、ポカンとして隙だらけな盗賊たちをその爪で削り飛ばすように振り払う怪物。……ああ、思い出した。確かあれはスフィンクスと言うんだったかね。王家の墓やら何やらを守っている聖獣だったはずだ。

 と言うことは、あの盗賊らしき集団は墓荒らしをしたってことかね。救いようがないな。死者を司る権能は無いが、死を司る者としては死は絶対的な安息でなければならない。メソポタミアにおける冥界の支配者たる神格も言っていたが、死とは元々そう言うものでしかなく、人間が考える生き物になってからというもの死に必要ないものまで概念的にポンポンと付け加えられていて正直なところ困ってしまうらしい。

 俺は元が竈の女神だからそうでもないんだが、どうやらあちらさんには元々死と冥界を司る存在として生まれたが故のプライドのようなものがあるらしい。そのプライドもカレーと天秤にかけるとしばらく悩んでしまうそうだが、一応プライドの方に傾くらしい。まったく、ポセイドンは守るべきもののためにカレーを犠牲にできるらしいというのにな。

 ……いや、あっちのほうも一応犠牲にできるのか。ただ、死ぬほどに悩み続けるだけで。

 

 そう言う訳で特に何も無いまま俺のエジプト旅行は続いていく。実際に何かあるかと聞かれれば特に何があるというわけでもない。飛び越した盗賊はスフィンクスに無残に蹴散らされ、盗賊を滅ぼしたスフィンクスは悠々と元居たであろう場所へと帰っていく。事実として、俺のこれからにかかわるような出来事は何一つ存在していない。

 つまり、俺がわざわざ気にするようなことも何一つ存在しない。そう言うことだ。

 

 ……別に、スフィンクスの上に跨る何者かを見てから全力でそこから離れようとしているわけではない。こんな状況で疑われるのが面倒だからさっさといなくなろうとしているわけではない。本当だぞ? だから、後ろから聞こえてくる声は空耳だ。問題ない。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。