俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、揶揄う

 

 ヘファイストスは、実の所男相手でも女相手でも行けるクチである。今はどちらかと言えば女の方が好きであるようだが、アフロディテと結婚生活を送っていてはそれも仕方が無いように思える。何しろアフロディテは美の女神だ。そこらの男よりも何倍も魅力的に映るだろうし、同時に羨ましくもなる。男から見て魅力的に見える女と言うのは他の女から嫌われやすい物だと言うが、子供を残さなければいけない動物の本能としては非常に正しい物なのだろう。自分よりも魅力のある存在が自分の近くにいては、周りの雄が全部その雌に持って行かれてしまう。それも、自分の狙っていた優秀な雄ほどよりそう言った存在に惹かれやすい。そういった点でも優れていてこそ優秀な雄だと言えるからだ。

 だからこそ、飛びぬけて優秀な雌と言うのは他の雌から排除されやすいと言われるのだ。

 

 だが、それはあくまでも寿命があり、子供を残さなければいけないという本能を持つ動物の話。神の中ではそうなるとは限らないし、ギリシャ神話と言う不老不死の神格の居る世界ではさらに話は変わってくる。自分が死なないのならばわざわざ自分の遺伝子を次の世代に引き継がせる必要は無いし、逆に言えば子供がいるからと言ってそれが愛の証になるとも限らない。欲望の捌け口として使われているだけかもしれないし、自身の役割を継がせるためだけの器が欲しかっただけと言う可能性もある。

 

「つまり、アフロディテと子供を作ったところでそれは恐らく鎹ではなく楔となってより距離が離れる結果を招くんじゃないかと思う訳だ」

「う……そう言う物?」

「知らん。処女相手に何聞いてるんだお前は。単なる予想だ予想。ああいうタイプは自由が好きだからな。ただ、自由すぎてついてきてくれる奴が近くにいなくて寂しくなると絶対にそこに居てくれる奴の所にひょっこり戻っていくもんだと俺は思うぞ」

 

 アフロディテの生態なんぞ俺の知ったところではないんだが、ギリシャ神話の神は大概人間の悪い所をかなり肥大化させたような性格をしていることが多い。人間ならば自由奔放と言っても他人に致命的な迷惑をかけることは少ないが、神にはそれは通用しない。自由に振舞うことで周囲に被害が出るようなことになっても当たり前のように行動するし、そうして迷惑をかけられた神から断罪という形で罰を受けても反省しないで復讐しようとすることすらある。はっきり言って糞だな、ギリシャ神話の神格。ヘスティア以外まともな奴がいない。

 ちなみにだが、今言ったヘスティアは俺ではなく、元々のギリシャ神話のヘスティアの事だ。いくら面の皮の厚いことに定評のある俺でも、俺がまともな性格をしているとはとてもとても言う事ができない。世の中にはできることとできないことがあるのだ。

 ともかく、割とクズしかいないギリシャ神話の中でもそれなりに神同士の間には関係と言う物がある。ヘファイストスで言えば、妻であり旦那でもあるアフロディテ。実の親であるゼウスとヘラ。育ての親である俺。自分の弟子兼助手のような扱いであるキュクロプスたち。それなりに親しい付き合いのあるのはこのくらいだろうか。

 そいつらの中で、ある程度相手のことをわかろうとして、かつできるだけ自分の思った通りに相手を動かしたいとなれば、まずは最低限自分がどう動けば、あるいは自分が動かなければどうなるかを知っておく必要がある。その事がわからないから、ヘファイストスは俺の所に相談に来たわけだな。俺は処女だし恋愛もしたことが無いからそう言ったことには疎いというのに、どうしてみんな俺の所に来る。

 

「まあ、性的な愛情以外の愛情をたっぷりと与えてやることだな。アフロディテはそう言った物に弱いと見たね」

「……本当?」

「多分な。実際にそうかは知らん」

 

 まあ、揶揄うことのできる相手がわざわざあっちから来てくれるんだし、楽しめるだけ楽しむとしようか。

 


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