俺を中心とした全方向の全てを焼き払う爆発。数百の、あるいは千にも届こうという必中の槍はその全てが蒸発し、世界の外側に存在すると言われる影の国の国土に巨大すぎるほどの傷跡が刻まれる。
大地そのものではないにしろ、農耕と言う形で大地と密接に関わりを持つ
―――さて、ここで問題。俺は竈の女神ヘスティアで、臨界状態から暴走させた太陽炉の爆発を受けても問題なく耐えることができるが、普通ではないにしろ人間であるベルがそんな威力の爆発に巻き込まれた場合、どうなるだろうか。
答えは、ベルの肉体がほぼ炭となった状態でここに送られてきたことから簡単にわかるだろう。耐えられるわけが無い。
だが、得る物は得てきた。武術としての縮地の妙。投擲法であるゲイボルグ。僅かではあるが槍術に、対人戦闘のフェイント技術。権能までは得られなかったが、正直最近権能が多すぎて少々混乱している所があるし、問題ないだろう。
しかしあの女、強かった。神格全開で戦えば恐らく勝てないことはないだろうが、それでもあの生き汚さと言うかしぶとさには間違いなく手を焼くことになるだろう。そんな戦いがまさか自爆で終わることになるとは、流石にあっちも思っていなかっただろうな。俺も思ってなかったし。
実の所ここまでになっても無理矢理なんとかできる方法はあったりする。どこぞのTUBAME方式で、あるいは全く別の方法で時間を巻き戻すなりなんなりすればその場で戦いに戻ることもできたし、時間を止めれば問題なく離脱することもできるんだが、今回はもうこれでいいと思った。あのまま続けても戦いが数年ほど続きそうな勢いだったからな。
それに一応対策はしていたんだが、まさか世界の皮を一枚剥がした次元違いの世界にまであの太陽の光が届くとは思わなかった。世界を次元ごと破壊できる太陽とか、それはもう太陽ではないな。少なくとも物理の太陽とは別物だ。
ケルト旅行、また今度にするか。今はこの炭の塊を元の状態に戻してやらなくてはならない。時間を戻す方法だとせっかく身体に覚え込ませた投擲法であるゲイボルグやら何やらも失くしてしまう可能性があるし、時間はかかるがゆっくりと直していかざるを得ない。ここまで壊れているといっそ新しいのを作り直した方が早いかもしれないが、それではせっかく育て上げた肉体が台無しだ。どうせだし、これはこのまま綺麗に治してやりたい。初めて作って完成したものだからな。多少の愛着はある。
それに、一度炭になってしまったのだから今の内なら改造しやすい。何もないのに手足を切り落として新しい手足を付けるとかは俺の趣味じゃないが、壊れている所に新しい物を付けるなら当人に合った物の中で最高の物を用意するのは問題ない。
筋繊維や神経繊維などに刻んだルーン。骨を起点として描かれる魔法陣。血管を経路として複雑に描かれる術式。今ならそれらをさらに効率よく刻み込むことができるだろうし、それによって性能も多少は上がる。
問題は手足だけ変わったことでステータスに手足が追い付いてこないと言う事だが、それも時間が解決してくれることだ。加護と言うのは身体が変わったところでそう失われる物ではない。だが、加護を受け続けていた場所と突然加護を受けることになった場所が同時に存在しているのなら、加護に生れていない場所が当然動きにくくなるものだ。
大切な物は慣れだ。慣れさえすれば問題なく稼働できるだろう。そう言う風に作ったのだからな。
なお、影の国はおよそ八割が消し飛び、スカアハも縮地を連発した結果、次の日の筋肉痛と大怪我だけで済みました。