離れようとするスカアハに対して、こちらは距離を取られないように接近する。その繰り返しの結果、お互いに致命傷にはならないだろう傷が増えてきた。
ほんの僅かにしか通らないとは言っても短槍での刺突は俺に刺さるし、全く同じ場所を何度も攻撃されれば防御無しで受けているのとあまり変わらなくなる。そうさせないようにこっちも動き回るんだが、先読みやらなにやらの精度が高すぎる。これが戦闘経験の差って奴だろう。
だが、こっちもただ一方的にやられているだけではない。熱量、要するにエネルギーそのものを固めて作った礫を、見様見真似で指先だけで擲ちながら拳だけでなく脚も振るう。身長差があるので色々と厳しいが、持って産まれたものだし仕方がない。懐に潜り込めば基本的に俺の方が有利になるしな。
投擲する槍は、俺が投げ方を覚えていくにつれていくつかに分割するようになっていった。技術でこんな気違い染みたことができる人間はもう人間扱いしなくていい気がする。人間扱いされなくなった結果が今のスカアハなんだが、それにしても何をどうすればこう言うことを実行しようと考えるのかがわからない。結果がついてくるかもわからないってのに、よくもまあこんなことをする気になったもんだとつくづく呆れてしまう。
それが呆れるだけで終わらないのは、間違いなくそれを実行した挙げ句に成功させたと言う事実があるからだろう。その事実さえ無ければただのおかしな奴で終わっていたはずが、なまじできてしまったが故にこんなことになっている。
「貴様……私の技を盗んだか」
「技は盗むものだと古今東西決まっているらしいぞ。それが事実かどうかは知らないが」
「まあ、良いだろう。私もお前の動きに慣れてきたところだ」
じゃあ変えるか。
最速の縮地で懐に潜り込んでからスカアハの腕を掴み、力任せに捻り上げる。スカアハはその捻りに合わせて腕を、身体を回転させ、更に蹴りまで放って来るが、俺もスカアハの身体の回転に合わせて回っているのだから当たるはずもない。
そのまま腕を固め、頭を抑え、締め上げる。ミシミシと軋むような音が腕から伝わってくるが、俺は数瞬の痛みの後にスカアハの片腕を破壊した。固めただけだとこういう輩は腕を引きちぎってでも襲い掛かって来るからな。特にここはケルトだし、そういうことをやって来る頭のおかしい奴が多い。
だが、流石と言うか相手はスカアハだ。空いていた脚で蹴り出した槍が奇妙な軌道で俺の延髄を貫くように飛んできていたため、俺はそれ以上の物を得ることができないままスカアハから離れて槍を掴み止めた。
流石に、何十何百と見ていれば軌道も読める。中々意味の分からない軌道を描くこともあったが、その辺りも投げ方の問題だと言う事が分かった。真似できるだろう。それをやったスカアハも絞められた頭と壊された腕を庇うようにしているが、それもほんの数秒の事。魔術にも精通しているスカアハはあっという間に回復し、壊れていた腕で新しい朱槍を握っていた。
「……見慣れん体術だ。それに、ころころと変わる」
「まあ、色々と混ぜてるし我流で組み合わせたりもしているからな。基礎は修めてるから一本でやることもできなくもないが、混ぜて使う方が色々とできることが増える」
「なるほど、道理だn―――」
言い終える寸前、スカアハは縮地で遥か後方に移動する。ここから俺が追い付くのは難しいし、流石にこの距離では俺の縮地だと荒っぽすぎて周囲がやばい。
だが、そんな俺の考えを知ってか知らずか巨大な槍が数十、その数十が三十ずつに分かれて俺の元に飛んでくる。どうもどれもこれもが俺の避ける先に着弾する軌道を描いている所から、この絨毯爆撃によって俺をここから動かさないようにするのが目的なのだろう。もしも動いたら流石にこの服でも貫かれるだろうし、動かなかったら動かなかったでスカアハ本人が縮地で接近してから心臓穿ちをやって来るか、あるいは最大の投擲をぶち込んでくるかのどちらかだろう。
ならば、俺はアレへの反撃としてやることは一つ。俺を中心とした全周囲を全て纏めて焼き払う。相手がインド系の神なら太陽くらい壊せないで戦神やら破壊神は名乗れるかと怒鳴りつけてくるレベルだからできなかっただろうが、打ち合った感触からしてあれくらいなら問題なく焼き払える。
―――さあ、臨界せよ、太陽の炉よ。周囲を文字通りに焼き払え!