俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、本気になる

 

 あまりに続く千日手に少しイラッと来たので、武器を変え(・・)ることにした。肉弾戦闘における中距離戦とも言える槍の間合いから近接距離の殴り合いに移行するにあたり、槍の形を取らせていたヘスティアウェポンを手甲脚甲へ。するとスカアハもそれに合わせてか長槍から取り回しのいい短槍へと切り替え、額と額がぶつかり合いになりそうなほどに接近しながら拳と槍を叩きつけ、突き刺す。一応スカアハの槍よりも頑丈さだけで言えばこちらの方が勝っているので殴り合いを続けられるし、ついでに言うと武器を使うのは好みでやっているがこういった原始的な殴り合いの方が長い事付き合ってきたおかげで慣れている。

 ただ、当然あっちの方にも利点はある。手首から先だけで投げつけられる細く短い槍。それは小さく細く弱々しいが、しかしそれでも投擲術であるゲイボルグ。投げつけられた小さな槍は三十の棘に分かれ、それぞれが奇妙な軌道を描きながら俺の身体を無差別に貫こうと迫りくる。

 それを手甲と脚甲で弾き返し、時に捕まえて投げ返す。あの奇妙な軌道を描く投擲術は、中々に面白そうだ。手に入れたい。

 

「この距離でゲイボルグを打ち落とすか……化け物め」

「うるせえ戦闘狂、ネギぶち込むぞ」

「なぜネギだ?」

「風邪が治るらしい。今度弟子が病気にかかったらやってやったらどうだ?」

 

 そんな軽口を叩きつつ、もう一度棘を捉えて投げ返す。三十に分裂するのはあの槍の効果だから仕方ないとしても、せめて奇妙な軌道を描きながらも狙ったところに当たるあの技は身に着けておきたい。この神殺しには効かないだろうがな。

 何しろ自分の技の事だ。恐らく全て知り尽くしていることだろう。改良するにも改造するにもまずはその技の事を良く知っていなければできないし、アレンジを加えるにもそれは必要だ。俺はアレンジ以前にまずは投げて当たるようになる必要があるがな。

 

 掌に隠せる程度の小さな槍の投擲と、片腕よりもやや長い程度の短槍での斬突の合わせ技。それを弾き飛ばしながら迫り、腹部に一撃。スカアハの顔が歪に、同時に反撃の槍が飛んでくるがそれを受け止めて投げ返す。一度に三本の槍を投げてくるようになってからはこちらにもいくつか槍が当たるようになっていて、正直な話この服が無かったらやばかっただろう。顔への攻撃を防ごうとしても軌道が捻じ曲がって真横から飛んでくるような槍を相手にしていてはまともな方法で防ぐことはできない。なんつー悪辣な槍だ。

 防具にしっかりと拘っていて本当によかった。顔に関してはまたいつか考えることにして、今は戦いを続けよう。

 それに、スカアハもそろそろ気付く頃だろう。今使っている小さな槍では俺の着ている服を傷つけることはできないし、手に持っている短槍では傷つけられても血すら出ない程度のほんの僅かな物。俺を仕留めるためには大技を―――即ち、最初に使っていた長槍を全力で使った技が必要だと。

 そのためには距離を取らなければならないが、俺も当然その弱点は理解している。距離を取ろうと離れようとする、あるいは俺を弾き飛ばそうとすればそれに合わせて動くだけ。後ろに跳べば追いかけ、弾こうと力を入れれば受け流し、弾幕で離れさせようとしてもこちらは目から撃ち出すビームで邪魔を入れる。ビームの溜めは威力最低なら瞬き一回分の時間があれば十分だからな。勿論、溜めておいた物を小分けにして撃ち出すこともできるから少しずつ溜まってきてはいるんだが。

 

 俺としてはまだまだ続けたいところだ。投擲術は少しずつ形になってきたが不安定だし、空間転移を思わせる歩法に関しては俺の使う力任せな物とは違う流麗さがあるのが見て取れる。まだまだ学ぶことは多いのだ。

 ……ただし、こっちも決め手に欠けるから終わらせたい時にどうするか、非常に迷う所だが。

 


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