アダマスは非常に硬質でありながら、同時に異常なほどの強度を併せ持つ。金剛石、つまりダイヤモンドと同じ硬度と、鋼と同じ延性展性を併せ持つキチガイ金属。それがアダマスだ。
しかし、その欠点は硬すぎることにある。確かに錆びず、欠けず、そこそこの重さがあるため手持ちで振ってもそれなりの威力になると言う武器としては非常にいい物なのだが、武器以外としては本当に役に立たない。弁当箱としてなら役に立つかもしれないが、わざわざそんなものをアダマスで作ったらヘラに怒られてしまう。
ヘラは最近、自我が強くなってきていた。言ってみれば生真面目な委員長タイプ、と言ったところだろうか。家計簿をつけさせたりすればそれなりにいい感じの結果を出してきそうだが、そんなものを神々の女王に教えるつもりもない。玉天崩は教えたが。
そして今、ここにはアダマスに代わる金属が一つあった。アルミのように軽く、形状を保っているにもかかわらず水銀のように柔らかくもあり、竹のようにしなり、変形しても簡単に元の形に戻るが、ある程度以上伸ばされたり変形させられると異常に硬くなってそれ以上伸びなくなる。こんな金属があるなら俺の短剣に使ったほっそい糸を作る苦労がほぼ必要無い物になっただろう。物凄く損した気分になった。
そしてその柔らかな金属で何をしているのかと言えば―――
「……はい、それじゃあ反対向きな、ハデス」
「は……はい……」
―――耳かきだった。
ハデスは俺の膝枕に頭を乗せ、顔を真っ赤にしながらも素直に右を向いていた顔を今度は左に向ける。神の身体は別に垢などは出ないためそういう所では汚くはならないのだが、一種のマッサージのような効果もあるためやりすぎなければ気持ちがいい物だ。
ちなみにデメテルとヘラにもやってみたが、外見だけならそこそこ大きくなってきたにもかかわらず普通に膝枕に頭を乗せ、普通に耳かきを受けて気持ち良さからか安心したからか眠ってしまった。
そこで暇になった俺は、唯一残ったハデスにも同じように、ただし外見の年齢からしてかなり小さな子供の状態であるため先程以上に優しく、耳かき兼マッサージを始めたわけだ。
……デメテル達の時も思ったんだが、こいつらの耳がすっげえもっちもちしてる。肌触りもいいし、ふにふにしてるし、とにかくすげえ。服が俺の作った飾り気皆無なそれじゃあなければもっと良かったかもしれないが、材料が用意できなかった。農作物の茎で作った粗い布のようなものなら用意できたし、それを錬金術であーだこーだすればちゃんとした布は用意できたんだが、流石に作りが簡単なワンピースとかそんなの以外は興味が殆ど無かったから覚えていない。むしろワンピースだけでも覚えていたこと自体が奇跡みたいなもんだ。
ちなみに俺の服は、さっき言った伸縮するが切れることは無い不思議な金属(仮称ハデスメタル)で作られている。デメテル達の服以上に機能性しか追及していないため、もしもヘラやデメテル達がお洒落に目覚めていたら色々と言われていたことはまず間違いない。量があまり用意できなかったから上は半そでのポロシャツ、下は太ももがほぼ全部隠せてない短パンみたいな形してるしな。量が増えたら錬金しなおして面積を広げる予定だが、今はこれぐらいの量しかない。ハデスの髪を丸刈りにする訳にもいかんしな。
そう、この仮称ハデスメタルはハデスの髪を錬金したらできたものだ。非常に便利に使わせてもらっているが、今のところ一番喜ばれているのはこの耳かき棒だろう。流石に梵天までは作れなかったが、それは諦めるしかない。残念だが。
ハデスの耳をもにもにしながらゆっくりと耳の内側を観察。汚れらしい汚れはなく、やや埃が入っている程度。これなら左耳と同じように簡単に綺麗にすることができるだろう。よくしなる耳かき棒を使い、ゆっくりと奥へと進めていく。こうやって弟をからかうことができるのも、また姉の特権と言うものだろう。その分弟や妹のことを気にかけなければいけないんだが。
……よし、大体綺麗になったな。耳の内側で変形させて鏡のように内側を覗けるから汚れの有無もわかりやすくていい。
それじゃあ仕上げに……
「……ふっ」
「ほぁあっ!?」
「おぉ?」
驚いた。わっ、とかそういうのなら予想できてたんだが、ほぁあ、は予想していなかったからな。びっくりした。
急に起き上がろうとしたハデスの頭を片手で押さえて再び膝枕にご招待。いきなり起き上がられるといくら耳かき棒が柔らかいと言っても怪我をするかもしれないからな。大人しくしておけ。
……よろしい。それではデメテル達のところに運んで子守歌でも歌ってやるとしよう。溶鉱炉の燃える炎の音こそ我が子守歌、とか言う気は無いし、静かに歌うのも昔から嫌いではない。では、ピアノでも弾きながら歌おうか。
Q.服の背中は開いていますか?
A.開いてるわけねえだろいい加減にしろ