俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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裏切りの魔女、叶える

 

 神とは、傲慢な生き物である。

 人間を見下し、自身の力で動かし、思うようにならなければ運命に干渉して壊すなり捨てるなりを繰り返す。

 神とは、高慢な生き物である。

 人間が自身の思う通りに動くことを当然だと思い、そしてその『当然』を破られることをひどく嫌う。

 神とは、愚かな生き物である。

 何の保証もないにも関わらず、自身を取り巻く今の環境が絶対不変の物であると無邪気に信じ込んでいる。

 神とは、そういった生き物である。

 

 そんな神の一柱であるヘラ。イアソンを祝福し、アフロディテに私がイアソンに恋をするように仕向けさせた、神々の女王の座に坐す存在。

 そして───

 

「お願いしますカレーの味がわからなくなる呪いを解いてくださいお願いします」

 

 ───私の目の前で九割以上本気で涙を流している存在である。

 

 苦労した。ここまでするのには本当に苦労した。

 鼻の頭にニキビができては潰れできては潰れする呪いはカレーを食べたら跡形もなく治ってしまうし、そもそも呪い自体がカレーで浄化されてしまう。何度も助けられたカレーだけれど、この時ばかりは憎くて憎くて仕方がなくなったものだ。

 だが、そこでふと考えたことが今の現状に繋がった。

 

 なぜ、カレーで傷が治り、呪いが解けるのか。カレーは言ってしまえばただの食べ物だ。確かに薬となる植物などを多く使っている薬膳とも言えるし、その薬を調合しているのはおよそあらゆることに長けていると言われるヘスティア神。それだけでおおよそあらゆることが説明できてしまうが、それは思考停止に他ならない。必ず、何らかの論理的な物があるはずなのだ。

 だから私はカレーと言う物について調べ上げた。その過程で私はカレー中毒になり、丸一日カレーを食べないでいると指先が震えだし、三日カレーを食べないでいると幻覚が見えるようになり、一週間カレーを食べないでいると肉体が崩壊し始めるようになってしまったけれど、後悔はしていない。

 その代わりに、私はカレーの神秘についての知識を得た。カレーはまず、その薬膳としての力による導入によって食べた物の身体をより完全な物へと近付ける。しかし、何を持って完全とするかと言うと、食べた者の認識を元にして完全と言う概念を作り上げるのだ。その際、ネガティブな気持ちであると完全な状態と言う物がどんどんと低くなっていってしまう。

 そこで重要になってくるのが、カレーの味だ。

 ただ一言。美味である。その一言でしか語れないその味により、ネガティブであった気分を全く別物に変えると同時にポジティブなままで固定する。要するに、カレーを食べる時に必要な物とは思い込みの力であったのだ。

 

 だから、私はヘラの味覚からカレーの味を感じ取る物だけを封じた。カレーを食べても何の味もしなければ、一度に気分は落ち込むだろう。そうなれば後は流れ落ちる滝のように落ちて行くだけ。まったく、良い報復方法を考え付いたものだ。

 そしてヘラはこの状況をなんとかしてもらおうとヘスティア様に頼み込んできたわけだが、その結果が今のこの状態。私としては私が殺されればその呪いはより強固にかかり、永遠にヘラを苦しめることができるし、私が生きている限りはたとえ解けたとしても何度でもかけ直すことができるようになっているのでどちらに転んでも問題は無かったのだけれど、まさかあのヘラが人間を相手に思いきり頭まで下げるとは……少々どころではなく驚きだ。

 

 ……いけない、指が震える。カレーを、カレーを摂取しなければ……

 




目標達成できてよかったですねメディアちゃん!
と言う事でちょっとした後日談の後、別神話入りですね。

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