俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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裏切りの魔女、詰られる

 

「どうして私を置いて行ったの?」

「私が逃げ切れるんだから私なら逃げられるだろうと思って」

「死ぬかと思ったわよ!? 本気で! 死ななかったけれど!」

「まあ、その身体の作り方から考えればそうそう簡単に死ぬことはないはずだから、いいかなって」

「待って。待ちなさい。なに? 私の身体、どうなってるの?」

「人間の形をとった不定形生物に取り憑かせているような状態だから、文字通りの意味で消滅させられない限りは生き延びるわ。金属原子の単体を無数に繋げてるようなものだから、そうそう死なないはず!」

 

 私は頭を抱えて蹲ってしまった。あれ? 何か変な事を言ったかな? 死なない事はいい事だと思うのだけれど。

 むしろ死ねた方が幸せだと思うこともある事は否定しないけれど。実際あるし。

 けれど、私が使い魔のような立ち位置になってくれて助かった。そのおかげで修行にも少し余裕が出てきたし、できることも増えてきた。数は力だというのは間違いない。

 まあ、勿論限度はあるけれど。英雄の中には一人で無数の怪物の群れを倒した存在もいるらしいし、ヤマタノヒュドラなんかは毒さえ効けば相手が何億何十億だろうと関係無く殺し尽くせる。

 まったく、化物(比喩にあらず)に囲まれてると自分が小さく見えて仕方ない。確かに策を弄しはしたけれど、それでもヘラの加護を抜くだけの実力はあるのだけれど。

 

 まあそれはともかくとして、トゥルッフ・トゥルウィスから逃げ切る事に成功したのだから次はヤマタノヒュドラの相手をしないと。私が白目剥きそうだけれど、まあきっと大丈夫なはず。少なくとも、金属である私に毒なんて効果無いだろうし。

 

「そう言う事で今度はヒュドラ相手だから、頑張りましょう?」

 

 私は一瞬何を言っているのかわからないような顔をして、数秒後にその顔を真っ青に染め変えた。人間の顔色があそこまで一気に変わるのを見たのは久し振り。一回目は確か……この修行一週目が終わってやっと終わったと安堵している所に『じゃあ二週目行こうか』と言われた時にヘスティア様の瞳に移り込んでいた私の顔だったかな。

 

「……ヒュドラ? ヘラクレスに倒されたはずじゃ……」

ヘラの栄光(ヘラクレス)? 誰?」

「ヘラクレスを知らない? そんな馬鹿なことが…………いえ、ありえるのかしら。この世界なら」

 

 私は突然悩み始め、うんうんとひたすらに考え込んでいる。何をそんなに悩んでいるのかは知らないけれど、そんなにそのヘラクレスと言う存在は有名だったのだろうか。

 

「……十二の試練を成し遂げた、ゼウス神の息子。そう言う存在はいないかしら?」

「え? あー……アルカイオス、かしら。でもヘラの栄光(ヘラクレス)だなんて名乗っては無いわよ」

「……そう。そう言う事も、あるのね……これが私の世界との大きな違いなのかしら」

 

 ぶつぶつと呟き続けているけれど、いったい何のことなのやら。まあ、これで私が満足するならそれなりの事は教えてあげるつもりだけれど。

 さあ、そろそろ立って逃げないと。毒蛇の王の死の香りが近付いてきている。私はまだ死にたくない。少なくとも、ヘラの鼻の頭にニキビができる呪いをかけるまでは。ヘラはその美しさを誇る神でもある。その綺麗な面に傷をつけてやれば、いったいどれだけ嘆き、怒り狂う事だろうか。少なくとも、私に神罰を落とすことは間違いないだろうが、そんな物は知ったことではない。私が死のうと消えようと呪いは解けない。今の私の呪いを解くことができるとすれば、私自身かヘカテー様か、あるいはヘスティア様くらいのものだろう。

 そのためにも、もっと強くならなければ。もっと強く、もっともっと強く。

 

 この害意()が神に届くまで。私はどこまでも手を伸ばし続けよう。

 

 


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