並行世界の私は、私がイアソンに呪いをかけたのを見たら呆然として、それから私に協力してくれると言ってくれた。お陰で実験が捗ること捗ること。イアソニーなんかとは比べることがもうおこがましいくらいに働いてくれている。
ちなみにイアソニーはもういない。イアソニーの原形となった液体金属の原子の集合体である使い魔達は、今では並行世界の私をこの世界に止める触媒として役に立ってくれている。
それに、液体金属の集合体であるという使い魔の本能のようなものは残っているらしく、私が自覚していないらしいところで伸び縮みして物を取ったりしている。本能ってすごいと思った瞬間だ。
さて、そしてお楽しみの
「いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「叫んでないで走って走って走って走ってもっと早く!」
「魔術使わせてよぉぉぉぉぉぉぉぉ! 私魔術師で体力無いのよぉぉぉぉぉぉッ!!」
「使うとその魔力を探知して優先的に狙ってくるけどそれでいいならどうぞ! あと今は私の魔力で目晦まししてるから追いつかれてないだけでもしそんな大声出してると―――」
「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ほら来た早く走ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「何でこうなるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
とにかく全速力で走る。体力無いとか言っているけれど、本来液体金属であるその身体は呼吸も必要としないし疲労もない。だからやろうとすれば私よりもずっと早く走れるのに、気付いていない。鈍いのか私に合わせてくれているのか、もしくは自分の身体がどんなものかをしっかりと掴めていないのか。きっと私に合わせてくれているのね。
「というかあれ何!? 何あの猪!?」
「ヘスティア神の飼い猪で、トゥルッフ・トゥルウィスっていう名前だったと思うわ。あとまっすぐ走ってると牙の先から稲妻走らせて来るからちょくちょく曲がらないと危ないわよ?」
「トゥルッフ……アーサー王と円卓の騎士をもってしても殺しきれなかった猪とかいったいどんな猪を飼って(バヂィッ!)ヒィッ!?」
「大丈夫! 全力でやれば少なくとも死なないように加減してくれてるらしいから!」
「魔術師に魔法禁止を強制してこれだけ走らせて手加減も何もあるわけないでしょぉぉぉぉぉ!!!」
と、言いながらも走る速度は落とさない私。流石だと思う。世界は違ってもこういう事には慣れているらしい。これならちゃんと他の修行にも着いてきてくれることだろう。本当に頼もしい使い魔を得た。
……ん? なんだか後ろで凄い事をしているような気配g
雷光。
牙が迫る。
身体。
腹。
狙い。
反らす。
無理。
止める。
超無理。
逃げる。
魔術回路起動。
術式構築開始。
魔力充填開始。
術式構築完了。
同時、魔力充填完了。
即座に起動。
空間転移。
座標固定。
空間掌握完了。
転移開始。
―――転移完了。
いつの間にか灰色に染まっていた視界に色が戻ってくる。回避は成功。けれどあれが走って来るのにちょうどいい道ができてしまった。草木は焼け落ち、大地が沸騰して溶岩になっている。
その上を、魔猪は凄まじい勢いのまま走ってくるのが目に見える。私は回避できたけれど、私の隣を走っていた私は―――
「―――っ、かはぁっ!? な、何よ今の!?」
あ、生きてた。流石は私の作った群体にして個体の使い魔の身体。熱で蒸発してもすぐに元に戻るのね。あの使い魔の性質上、存在そのものを消滅させられたり、封印されたりしない限りは壊れないようにできているはずだけれど、神獣の雷撃にも耐えられるのね。いい結果かしら?
まあ、それより今は逃げないと。あの雷光は私の姿を隠してくれた。魔猪は私の姿を見失っているはず。しばらくすると姿以外の物……例えば匂いや魔力、魔術痕などで追いかけてくるだろうから、とにかく逃げないと。じゃないと死ぬ。
「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
……逃げないと!