いっそ殺せ、と何度思ったことだろう。トゥルッフ・トゥルウィスの牙に腹を貫かれた時。ヒュドラの猛毒に全身を侵された時。TUBAMEに全身の皮膚が無くなるほど全身を切り刻まれた時。トメタマノオミの投げる岩塊に片腕と片足を潰された時。ガルムの纏う炎に包まれて全身が焼け爛れた時。グガランナの雷に打たれた時。ハーメルンに纏わりつかれ、生きたまま貪り食われた時。バフォメットの出す問題を解けず、魂をズタズタにされた時。スレイプニルの蹄が上半身と下半身を両断されない程度にめり込んだ時。キメラの毒爪を喰らって転げまわった時。へすてぃあどらごんの毒光に焼かれた時。
毎回毎回そう思いながらも、こびりついているイアソンへの復讐心だけは忘れられなかった。そのせいで私は毎回毎回蘇り、そして何度でもカラシニコフのペット達に挑んでいった。
恐らく、私から復讐心が失われていたならばその時には死んでいたのだろう。私の持つスキルにはそういう効果があると知っていて、その上で死ぬギリギリのところまで追いつめ続ける。効率だけ考えれば素晴らしく良いのだろうし、更に言ってしまえば効率を突き詰めてくれと言ったのは私だ。それなのにいまさらその方向を変えてくれなどとはとても言うことができない。なにしろ結果的に私の願いに近づき続けてはいるのだし、私が諦めさえしなければ早々死ぬことはないのだ。諦めず、全力で続けている間はカラシニコフ神も月兎に治療を続けさせてくれると言ってくれたし、気を抜きさえしなければ死ぬこともそうそうない程度に加減してくれる魔物を相手にできる場所などここ以外には存在しないだろう。
「怪物王という存在が居てだな」
「へすてぃあどらごんですか?」
「いや、真正面からやり合えば多分あっちの方が強いな。へすてぃあどらごんは半分遊び心で出来ているから戦闘には役に立たない機能とかもあるし」
「具体的には」
「変形合体して人型巨大ロボになってロケットパンチ撃ち込んでくるとか、ブレスを最弱まで弱くしてやるとドライヤーの代わりに使えるとか、燃料切れになりそうになると近場の物質を吸収して燃料補給攻撃してくるとかか」
燃料補給が攻撃になるってどういうことなの……。まあ、食べていると考えれば齧ったところが攻撃されるというのも分からなくはない、か。
ただ、どうしても嫌な予感しかしない。それ、まさかとは思うけれど私が相手をしている時にされたりしないだろうな、と。そう言った吸収系の技というのは元々あったはずの物を取り込まれてしまうから、魔術的な再生をやりにくいのだ。
存在しているものが、ある意味では生きたまま全く別の場所にある。ただ切り取られただけならばくっつけるなり切られなかった可能性を濃くして持ってくるなりすれば簡単に再生できるが、食われたとなると本当にやりづらい。食った相手の魔術的防御やら何やらを抜いて、その上で色々とやらなければいけないから手間もかかる。
「燃料はたっぷり載せてあるから安心して挑め。本気かつ全力でやれば倒すことはできなくとも死にはしない程度まで手加減させているからな。必死に挑め」
「ええ、勿論よ」
「一応言っておくがあいつら今出してるのはいいとこ一割だから、舐めないように」
「……いち、わり?」
「いいとこ、一割だ。一割出してるのは今の所TUBAMEだけだな。速度特化だから当たりさえすれば倒せるぞ。止まった時間の中で速度を頼りに動き回り、平行世界からの斬撃を世界の壁を皮一枚剥がして潜り込むことで回避し、速度任せに時間を巻き戻すようなやつだが、当てれば勝てる。頑張れ」
……お父様。お母様。メディアは今、頑張っています。死にそうですが。