俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、解呪する

 

 恋心を失い、愛が憎悪に裏返る。よくあることだし、飽きるほど見てきたことでもある。人間同士の中でも何度も何度も繰り返されたことだし、神と人間、そして神同士でも何度も繰り返されている。何度か神界とでもいうべきオリュンポスにて大喧嘩の末様々な物が砕け散ったことがあり、その原因が神同士の痴話喧嘩から始まった物だと聞いた時にはあっけにとられたものだ。

そういう所では、神も人間も大して変わりはしない。いや、なまじ大きな力を持っている分神同士でのことの方が面倒かもしれない。

 

 だからこそ、俺はメディアの憎悪がヘカテーに……いや、正確に言おう。ヘカテーを一面として持つアテナに伝わった結果、その憎悪の炎を理性で無理矢理抑え込まれるという結果に終わることを看過できなかったのだ。

 メディアをこのまま放っておけば、世界に対して大きな害となるだろう。だがしかし、世界を守るためだけに憎悪と嫌悪の炎に理性と言う冷や水を叩きつけるようにぶちまけて無理矢理冷静にさせてしまうと言うのはあまりにメディアが報われない。

 その炎を、消さないように。怒りを怒りのまま、憎悪を憎悪のままに保持し続け、しかして牙を研ぎ続ける。そう言った理性的な復讐を行ってもらおうと思う。

 

 何しろ、俺は竈の女神として産まれたが、一番初めに持った思いは産まれたばかりの俺を呑み込んだクロノスに対しての復讐だ。正当な復讐ならば俺は肯定するし、そのために必要ならば色々と手助けくらいしてやるとも。

 勿論、正当な復讐の範囲内ならば、だがな。

 

 そのために、今こうして燃え盛っている魔女の感情の炎を消さないように鎮静化させなければならない。ただひたすらに荒れ狂うだけの真紅の炎から、鋭く一点に集中した静かな青い炎へと。そのために必要なのは燃料ではなく、その燃料をより効率的に燃やせるようにするための酸素……具体的な計画だ。

 より冷静に。より正確に。正当な復讐の範囲を超えない程度に被害を抑えながら、しかし同時に正当であると俺が認める範囲においては最大限。周囲ってのは要するに広さや数の事を言っているわけだからな。極狭い範囲を綺麗に焼き払うくらいだったら構いやしない。その位の事なら神にだって普通にやる奴がいるし、俺だって時々やる。あまりに木が大きくなりすぎたりすると周囲の若木が成長できなくなるから取り除いたり、病気になった木から病が広がらないように切り倒したりな。

 

 俺が作った鉛の短剣。黄金の矢で打ち抜かれた者の精神状態を元に戻すには、この短剣の腹を触れさせる。刺したら刺した当人……つまり俺が嫌われるという結果で終わるのだから、少々時間がかかってもこうしてやるしかない。あまり長いこと続けていると黄金の矢の効果が切れても続けてしまい、世界全てに対して嫌悪感を抱くようになってしまう可能性もあるから調整が大切だ。

 今はこうして眠り続けているが、それはメディアがイアソンに裏切られたと知った時の衝撃によるもの。そんな状態でも恋を忘れられず、憎悪を湧きあがらせても恋心が無理矢理に蓋をしている状態だ。この状態を何とかしてから、メディアとは話をすることにしよう。冷静に話ができないと色々と面倒な事になるだろうから、初めのうちは落ち着かせることに力を注ぐ。メディアほどの力を持つ魔術師は早々いないからな。メディアがもしも本気で人間社会を壊し尽くそうとして動いたならば、本当に国の十や二十は潰されてしまう可能性がある。本当にいい弟子を取ったもんだよな、アテナはよ。

 まあ、神だったとしても運だけはどうしようもならないもんだからな。俺にそう言った奴ができないのもまた運みたいなもんだ。最悪自作すればいいと言って実際に作っちまうような奴のところに来たがる奴の方が珍しいかね。

 

 ……ん? そろそろ、か。




次回、狂気回

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