俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、祈られる

 

 アルカイオスが、俺に祈った。あの脳まで筋肉でできていそうなアルカイオスがそうしたと言うのならば、そこには何か理由があるはずだ。例えば、自身にかかる呪いの事を知り、しかしその呪いが見つからないと言うことになれば、その呪いは人間にはどうもできないと言うことになる。

 故に、アルカイオスは神に願った。実際にはすでに呪いが解けているにもかかわらず、そのことを知らなかったがために呪いが見付からなかっただけなんだが、ここで俺に祈ったのは実に正しいと言わざるを得ないだろうな。

 他の神格……例えばヘルメスに頼んだとすれば、色々と面倒なお題を出された挙げ句に知らされるのが『呪いはとっくに解けてるよ』の言葉。報われないにも程がある。

 それを理解していたのかそうでないのかはそれこそ知ったことじゃないが、アルカイオスは良い判断をしたと言うことだけは誉められるだろうな。

 

 さて、そう言うわけでアルカイオスに神託を送る。まあ、本人の頭の中に実際に起きていたことを送りつけるだけの簡単な作業だ。

 要するに、既にアルカイオスには呪いなどかけられてはいないと言うことを伝え、元々の理由がゼウスの浮気とヘラの無意識の嫉妬によるものだと教え、前回俺の元に来たときには既に解かれていたと言うこともついでに言っておいた。

 

 なぜその時教えてくれなかったのかと聞かれたが、俺は聞かれもしなかったことをわざわざ口に出すほど暇でも人間贔屓でもない。聞かれたのならば答えてもよかったが、聞かれもしないのに俺をあまり信仰していなかった男に心を砕いてやるのも馬鹿らしい。人間で言えば、特に親しくもない初見の奴相手に態々自分が知っているからと言う理由で何でも教えてやるかと言う話だ。普通は教えん。俺だって教えん。当然のことだろう?

 俺はその点聞かれさえすれば大体教えてやるんだから、どちらかと言えば有情な方だと思っているんだが……。

 とは言え有情ではあるが優しくはない。だから俺はアルカイオスの呪いは妻を抱くときにのみ無効で他の女を抱くときには有効になっていると言うことは教えていない。他の女に見とれて欲情する所までは許しても、他の女を抱こうとすると今まで通り痛い目を見ることになる。これは呪いではなく祝福扱いだからな。諦めるといい。

 童貞は卒業できるんだ。一応祝福させてもらうよ。処女神としては複雑だがね。

 

 ……そうそう、気が向いたらで良いから、メディアと言う名の女に出会ったら俺のところに顔を出すように伝えておいてくれ。気が向いたらで良いし、会わなかったからと言って探す必要も無い。

 理由? そいつもまた神の我儘に振り回されるだろう奴だからさ。しかも姪の嫁にな。恋と愛(ただしどちらも性欲絡み)の女神の企みってのは本当に怖いな。以前悪戯か本気かわからなかったが超遠距離からエロスに狙撃されたこともあり、その恐ろしさはよく理解している。

 ちなみにその矢は刺さらないように摘まんで鍛冶用の竈に放り込んだ。その次に作った鉄で打った武器に『刺した相手を自分に惚れさせる』と言う効果があっても仕方ないよな? 実験に協力してくれたエロスには本当に感謝している。ありがとう(死ね)。間違えた。ありがとう(消えろ)。違った。ありがとう。よし。

 

 さて、これでギリシャ神話におけるヘラクレスの十二の試練が終わったわけだ。ギリシャ神話では十二の試練となったわけだが、実際には十の試練だったのが二つほど無効扱いされて増えた結果だったな。では、この世界におけるアルカイオスの試練の内容はいったいどういうものだったのか。恐らくそれを見ていただろうポセイドンやゼウスあたりが次来た時に聞いてみるとしようか。

 


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