俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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なお、実際に殴っているのはケロちゃんの模様。


竈の巫女、殴り返す

 

 さて、戦争において大切なものはいくつかある。まず上げられるのが、糧食だ。兵は食わなければ動けない。食わないまま無理矢理動かせば、待っているのは死ぬ未来。それがわからない人間など存在しないはずだ。

 食わなければ死ぬ。極々当然のことで、同時に誰もが理解していることだ。

 次に数。この場合の数とは戦力の数であり、総数ではない。勿論継続的に糧食を用意するためには総数も必要になってくるのだが、こと神の戦にはあまり関係ない。食わねば弱るのは人間と変わらないが、実際に食事をとるのではなく信仰を得ることの方が遥かに大切だ。そうしなければ文字通りに消えてしまう。

 だからこそ戦を挑んでくるような神が出てくるわけだが……やはり、世界には様々な神がいるようだ。日本神話では、基本的に神とは概念的な存在であり、肉の器を持って人と触れ合う事ができてもあくまで基本は精神的なものに依存する。だからこそ、日本神話の神格は死んでいても気が付いたら甦っていたり、腕をもがれても気が付くと治っていたりするわけだ。

 まあ、一番頑丈なのは神よりも形の定まらない妖怪の方なんだろうが、それこそ頑丈さは千差万別、どれもこれもが同じだけ頑丈である訳じゃない。人間に違いがあるように、神や妖怪にも当然違いがある。

 

 だからこそ、種族は神として一貫しているにも関わらず、これだけ大きな差が付くわけだ。

 

 俺に戦争を吹っ掛けてきた天津神、建御名方が俺の眷属である洩矢神の一柱と互角に渡り合っている。洩矢神が使うは鉄の輪、対する建御名方は巨大な柱と藤の蔓を使って戦っている。

 だが、なぜ藤の蔓? なにか効果でもあるのか?

 

「……何故だ?」

「ん? 何が?」

「なぜ、錆びぬ」

「あ、あーあーはいはいそう言う事ね。教えるわけないだろ馬鹿じゃないの?」

 

 洩矢神はそう言いながら建御名方の振るう藤蔓を鉄輪で切り払う。俺の方も今の言葉で理解した。あの藤蔓で鉄の輪を錆びさせようとしていた訳か。まあ、錆には強い材料で作ったからな。早々錆びんよ。

 しかし、本気でこの地の信仰を奪いに来たならわざわざ一対一での決闘に拘ることをせず、適当に軍をもって神を滅ぼしてから成り代わればいいと思うんだが、そうしない理由は何かあるのかね。あの軍神は戦うのが好きであるようだが、今のように侵略を行うのは嫌いだとかそんな理由か? あるいは、侵略だとかそういうのを除いた純粋な喧嘩の方が性に合っていて精神的な理由で本気を出しにくいとかかね。

 

 だがまあ、今回の戦はそっちから挑んできたものだ。反撃喰らって何が起きても俺は知らん。もしもここで追い返されて上の方に泣き付いて、上の方が本腰入れてきたならば……俺にも考えがある。

 具体的に言えば、太陽を取り換えて、月を取り換えて、あっちの最高神の力を激減させて、その上で高天原まで出向いてやって、高天原ごと重力の檻に放り込んで封印する。そんな事ができるのかと聞かれれば、まあできるとしか言いようがない。実際できるわけだし。

 とは言っても疲れることには変わりないし、太陽の権能を二つも持っていても使い道がないからやりたくないんだがね。

 

 ……そろそろ決着がつく頃だろうか。負けることは無いと思うし、負けそうになったら無傷の別の洩矢神と入れ替われば相手が疲れた状態でもう一度初めからと言う事ができる。一対一の戦いだが、そもそも洩矢神は群体にして個体の神として作り上げたのだから、何十何百居ようと一体だ。問題ない。

 ずるい? そもそも不意打ちで喧嘩を仕掛けてきたやつが言える立場だと思ってるのか? 喧嘩を仕掛けてくるんだったら当然こっちのことだって調べてあるんだろうから、予想して禁止しない方が悪い。と言うか、それをやらせるような隙がある方が悪い。

 喧嘩においては何でもやるぞ? 試合だったら話は別だがな。

 


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