俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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神様やってればこういうこともあると思います。


竈の巫女、人を裁く

 

 罪には罰を。社会と言う名の集団において、それがどんな物であろうとも必ず規律と言う物が存在する。それが明文化されているかされていないかは問わないが、もしもそれを破った場合には間違いなく何らかの報いを受けることとなる。

 例えば、獣の集団を想定したとしよう。その集団は一つの群れとして存在している時に、間違いなくその群れを率いるリーダーとも言える存在がある。そのリーダーの指示に従って群れは行動することになるのだが、ここでリーダーの言う事が聞けない存在はその集団からはじき出されることになる。

 集団と言う形で狩りをする動物は、その多くが個体で狩りをするのに向かない存在である。狼ならば小さな兎などを狩ればいいのだが、そもそもそこに兎のような小さな動物がいるとは限らないし、小さな動物と言うのは食べても腹が膨らまないし動きも素早い。巣などの狭い場所に逃げ込まれればもう手出しはできなくなってしまう。

 だからこそ、そういうことをさせないために集団での狩りをする必要があるし、ある程度意思の統一をするために、リーダーの方針に従わなければいけないと言う法が生まれる。

 

 動物ですらそう言った原始的な規律が存在するのだから、人間にはより多くの規律が存在したところで驚くことは無い。

 

 一つ。ミシャグジを神として崇める者同士での殺害を禁ずる。喧嘩に関しては傷一つなく治る範囲ならばよし。

 一つ。ミシャグジを神として崇める者同士での窃盗を禁ずる。貸し借りは個人で許せる範囲、返せる範囲に止めること。

 一つ。病や怪我をしていない者が自身に与えられた仕事を終わらせずに遊びに耽ることを禁ず。息抜きは適度に。

 一つ。俺の庇護下に居たいのならば、理不尽に命を奪うことなかれ。狩りを行うならば、自身が狩られる可能性も考慮すべし。

 一つ。願いには対価が必要。願いの大きさや難易度によって必要な対価は変動する。

 

 ……こう言った『必要なこと』と『最低限俺の在り方を理解できる内容』を法として一般に広めた。文字に残し、石板を削って条文を作り上げた。

 俺の法はあくまで最低限。あまりにも細かいことまで決める気はないし、そんなことをしていったら面倒事になる未来しか見えてこない。

 

 だが、最低限だからこそできることもある。最低限だからこそできることがある。

 人間が、いつか自分達の手で細かなことを決めて行き、いつの日にか法など無くとも誰もが良心に従って生きていけば生活が回るような国にしていきたい。

 ……まあ、それが難しいことはわかっているんだがな。それでも目指すことに意味がある。

 

 しかし、今この時に起きた罪には、俺がそれに見合った罰を与えなければならない。それが俺の法の一つであり、俺の仕事の一つでもあるのだから。

 

 今回の裁きは、殺人一歩手前の大怪我を負わせたことによるものだ。どちらも酒が入っていたこと、また怪我を負わせた方もそれなりに傷ついている点、さらには単なる物理的な打撲しか無かったことで時間はかかるが酷い傷跡は残らないで完治する事が予想できる点から多少情状酌量の余地はあるにしても、全く何の沙汰も無くそのまま過ごさせるわけにはいかない。

 本来殺人には殺人を。大怪我には大怪我で報いさせるのが俺のやり方なんだが、この時期に大の男二人が消えるのは収穫的に痛い。

 なので、今回は怪我を負わせた相手の田畑の方も世話をすること、と言うことで落ち着いた。喧嘩をする元気があるのならその元気は働く方に回してもらうとしよう。

 それがずっと続くと身体を壊すことになりかねないが、それでもしばらくは持つ。

 

 まあ、あくまでこれは一度目だからこの程度なのだ。次回からは反省の色が見えないと言う事で、罪は重くなっていく。具体的には、空腹を感じたまま何も食べなくとも生きて行けるようになり、しかし食事をすることができないようにする。空腹を抱えたまま、ひたすらに働き続ける。そう言った罰も用意してある。

 人間には間違いなく辛い罰だが、それでも死なないようにはしてある。精々罪を犯さないように生きてゆけ。

 

 


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