俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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蛙の禍神、生を受ける

 

 周りには、同じ顔が並んでいる。()であったり()であったりと違いはあるけれど、それ以外は何も変わらない。

 金色に輝く太陽のような髪。童女のような顔立ち。紫を基調とした上着に、白の内着。緩く腕を蔽う袖に、脚を包む白の長足袋。私達は同じ神として、同じ存在として、群体にして個体の神として、ミシャグジ様に作り上げられた。

 蛙は特に大きな社会を作ったりするわけでもないはずだけれど、ミシャグジ様にとってはそれは関係のないことだったらしい。むしろ、ある程度の違いを出すためにはそうあってくれた方がよかったとか。

 ただ、ミシャグジ様には感謝している。ただ生きて、ただ子を残して、そして死ぬ。そんな生に比べれば、今、こうしてミシャグジ様に仕えて生きる方がずっと良い。人間を支配して生きる。元はただの蛙でしかなかった私にしては、なかなかいい生き方ではないだろうか。

 

 そして私たちを作り上げたミシャグジ様は、私たちの中から何柱かを選んで二本の髪紐を与えてくれた。これが、私たちがミシャグジ様の意思を受けて行動をしている最中だと示す物になるらしい。それは私たちの中でも選ばれた者にしか渡されず、同時にこれを渡されたからには失敗は許されない。

 私たちは天罰の神。ミシャグジ様に仕える災害の神。人間達が神への敬意を忘れ、あるいは神の守護を当然の物と思うようになれば、容赦なくその守護を取り上げ、罰を与える。

 ミシャグジ様は守護の神。大地を貫き、天を支える塔の神。龍脈を鎮める土地の神。穢れを払う浄化の神。境界を示す賽の神。祭儀の炉の炎の神。田畑の豊穣の神。蜂を率いる虫の神。天候を操る風雨の神。傷を癒す治療の神。薬や道具を生み出す知恵の神。

 私たちは天罰の神であると同時に、そんなミシャグジ様の権能に似たものを自身で得ることができている。

 私は神の怒りを表す天罰の神であると同時に、大地より生まれた鉄の神。別の私は風雨を。また別の私は炎を。また別の私は雷を。また別の私は薬を作ることができるし、また別の私は境界を扱うことができる。私たちは私たちと言う一つの神であると同時に、私たちと言うまったく別の個体でもある。それを表しているのが、天罰の神でありながらその天罰には様々な種類があると言う事だ。

 例えば、突然に沸き立つ炎に焼かれて命を落とす。例えば、天より降り注ぐ雷に打たれて死ぬ。例えば、突如広まった病にて落命する。私の場合は、身体に流れる鉄の水を蒸発させることで天罰を行うだろう。それが私たちの在り方だ。

 

 私はこれから生まれたこの地を離れ、離れた場所にある小さな村に向かう。そこで小さな塔を建て、ミシャグジ様の眷属であると知らしめながらその村を守護し、あるいは裁く立場に立つようになるだろう。

 ミシャグジ様の用意してくれた青黒く輝く金属のような髪紐をつけ、ミシャグジ様が一つ一つ作ってくれた『錆びない鉄の輪』を縮めて手に通し、私は塔を後にする。

 

 兄弟姉妹たち、そしてミシャグジ様が見送ってくれている気配を背中に、私は歩き始めた。

 




 
 なお、名前は皆さんの予想の通りだと思われます。『洩矢神』です。

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