俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、奉られる

 

 嵐。地震。噴火。洪水。旱魃。様々な天災が降りかかる中で、そんな自然の猛威をものともせず存在し続ける不変の存在。それは人間ばかりではなく動物、植物の畏敬すらも集め、神へと至ることがある。同時に、それに関わる存在を巫女と言ったり、あるいは巫覡と表したりもする訳だ。

 そして、そう言った存在に対して人間を含む動植物が望むことは、その庇護を受けること。その巨大な塔の周囲に村落を作り、狩りで取った獲物や農作によって作られた収穫物を捧げることで、その存在の歓心を買い、自分たちが平穏に生きて行くことを望むのだ。

 

 だが、そうするためにもまずは順序と言うものがある。いきなり周囲に人間が住み着くと言うのは、恐らくその存在の不興を買うことになるだろう。ならば、そこに住む前に住むための許可を得ること。それが必要不可欠となる。そのためには、まず自身が用意できる物のうちで最もいいものを献上し、地に伏して許可を願う。話しかけられないうちから口を開くことは許されず、話しかけられたことにのみ答えること。

 そして、そこで暮らせるようになった時に自分たちが用意できるものを提示し、相手がそれに満足するようであればそれを対価にその場所に住む。そういう話であるわけだ。

 だがしかし、それは同時に神の側も縛られると言う事でもある。契約は絶対のものだと言う認識はこの神話世界においては成り立たない。嘘をつく神もいるし、妖怪もよく嘘をつく。むしろ、嘘をつかないと言うようになっている悪役と言う方が珍しいのだ。

 キリスト教圏の悪魔は契約について嘘をつくことは無いし、一度結ばれた契約は命ある限り何があろうと守る。それはそういう風に作られたのか、それともそうしないと力を失ってしまうなどのデメリットが存在するのかはわからないが、そう言った珍しい存在であることは確かだ。まあ、あくまでも嘘をつかないのは契約に関しての話であり、それ以外の所では虚言を吐くこともあるだろうし、自身の本音を隠すこともあるだろう。

 まあ一番えげつないのは間違いなくキリスト教圏の天使だがな。悪魔は契約において嘘はつかないが、天使は嘘をつくかつかないかを相手を見て決めるからな。嘘をつかない相手の前では絶対に嘘をつかないが、代わりに嘘をついていいと認識している相手の前ではそれこそ息を吸って吐くように、自然に嘘をついてくる。はっきり言ってえげつない。

 まあ、その天使を作った神があれだから仕方ないと言えば仕方ないのか、それとも神が子供ともいえる天使の育て方を間違えたにも関わらずそのことを認めてない有害な親馬鹿なのか、あるいはその神や天使自体が欲深い人間の創作から生まれた一種の妖怪なのか……キリスト教圏では神が悪魔になることも多いし、日本と同じような形で神が作られたとするならばそれは十分あり得るような気がする。敬虔なキリスト教徒の前でこんなことを言ったら某神父のやるように『エ゛ェェェェェェェイメン!』されそうだから、当人の前ではあまり口にしないようにしておこう。面倒だし。

 

 ……そう言えば、メソポタミア神話はユダヤ教の布教と言う名の侵攻によってどんどん衰退していったらしいが、もしもその時代までギル坊やエンキドゥが生きていたら……布教に聖人や天使がグロス単位で付いていたとしても返り討ちにされるだろう。武器だけなら対神宝具とか割と揃ってるらしいし。

 

 まあ、それについては俺の知り合いが今日も元気でやっていると言う事だから問題ない。今一番問題なのは、俺の建てた塔の周りでひたすらに祈りを捧げている見知らぬ人間達の集まりだ。今では塔の中の空間を広げて畑や水田を移し、自作の太陽(小さめ)を浮かべてレーザービットの樹を植えて階層ごとに育てているから別に外で何されても邪魔ではないが、いったい何を求めているのやら。

 仕方ないので、会いに行ってみるかね。

 


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