俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、無駄に気付く

 

 場所が分かった。と言うか、気付くべきだった。不覚だ。

 日本には湖がそれなりの数あるが、俺は日本のできるだけ真ん中に降りたのだ。本州の、東と西のちょうど中間あたり。日本の真ん中にある湖と言えば、それは一つ。諏訪湖、だ。

 そして、古代日本には諏訪湖の付近に神がいた。日の本の国の西と東を分ける境界の神にして、日本と言う島国の龍脈を統括し、あらゆる土着神を龍脈から支配した土着神の頂点。龍脈を通じてあらゆる願いと怨嗟を喰らい、怨念と希望を喰らい、畏怖と信仰を受ける神。

 そして俺のこの世界での自宅は、地上数百メートル、地下でも百メートルと少しと言う長大な物であり、その下端は龍脈の本体ともいえる地下水脈と接し、二枚のプレートの境界の上に存在している。つまり、俺の自宅となった塔自体が、龍脈に触れているのだ。

 ちなみに、地下最深部では地熱で暖められた湯を取り込んで源泉かけ流しの温泉を作っている。男湯と女湯は分けてあるが、無論混浴も作ってある。俺は混浴の方にはまず入らないだろうがな。

 その温泉はもしもどこぞの神がこの場所に遊びに来た時にでも使わせるつもりで作った物で、いつもは俺の貸し切りだ。ここの湿気とほど良い熱は、上の味噌蔵を適温に保つのに一役買っている。

 

 ……まあ、何が言いたいのかと言えば……俺は竈の女神の巫女だ。竈の女神の巫女だが、俺の信仰する……とは少し違うかもしれないが、ヘスティアと言う神は竈の女神であると同時に家を守る神であり、なぜか境界の神でもある。

 ミシャグジと呼ばれる日本神話の土着神の頂点の神は、祟り神であり賽の神と呼ばれる境界の神でもあったとされている。

 

 …………偶然だな。そう言う事にしておこう。俺は祟りとかを司っては……神に対しての抑止力として阿保やらかした奴に制裁と言う形で呪いをかけたりしたことはあったが祟りは関係ないし、龍脈を操ったりも……この塔を作って龍脈に直接触れる機会ができるまではできなかったし、願いや怨嗟、呪詛なんかを喰らって強化するようなことも……神としての性質が変わるからあまりやろうとしてないし?

 ほら、偶然だ。そうに決まってる。境界を保つ神だからと言って今までそんなことをやって来た覚えは……メソポタミア神話世界とギリシャ神話世界がくっつかないようにした時くらいで他には殆ど無いし、賽の神としての権能は……村の守護、家庭の守護、外からの外敵を防ぐとかそういう所以外は共通していないし、後に賽の神と同一視されることになる道祖神及び猿田毘古神のようにだれかを導いたりとかは……弟妹に道を説いたり、義娘に相談を受けたりとかそういうちょっとしたこと以外はしていないし、偶然以外の何物でもないな。

 

 そう、だから、俺がここにいたせいでミジャグジが神として産まれなくなるとかそんなことがあるわけが無いに決まっている。そうとも、大丈夫だとも。日本の歴史が物理的に変わるとか、無い無い。問題ない。はず。

 

 ………………さて、うむ、よし、大丈夫だ。問題ない。現実逃避もそろそろ終わりにするとしようか。

 

 俺が、ミシャグジだ。同時に俺の御神体と呼ばれるものは、この塔だ。俺が作ったこの塔が俺の御神体であり、この塔に住む者に龍脈へのアクセス権が与えられる。

 つまるところ、(ベル)は人間でありながら神に、現人神になってしまったわけだ。俺を信仰したのは、この近くに巣を作って居た蜂や、この塔が視界に入る位置にいた獣たち。まあ、獣に信仰される神も普通に存在するし、ヘスティアだって聖獣としてロバを宛がわれたりしている。何もおかしくはないだろう。多分。

 だが、俺が居なくなった後のこの塔の行く先が心配だ。いったいどうなることやら。

 


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