武器のガワはできた。刻み込む術式もできた。青銅で試作して問題ないことも確認できた。そうなれば後は実際にガワに術式を刻み込むだけなので難しくはない。増える投擲用短剣(無数の返し針付の串)に、同じく無数に増える接近戦用の短剣三種(普通の・見えない糸付き・鎖付き)。しばらくはこれで俺の武器はいらなくなるだろう。
そういう事なので、妹たちと遊んでやることにした。最近はかなり放置気味だったので寂しい思いをさせてしまっている。それは良くない。小さな頃に愛情を受けずに育った子供がまともな大人に成長することは殆ど無い。あくまでそれは人間での話だが、精神の基盤が人間のそれとよく似ている神々の在り方を考えれば人間と同じように愛情を受けずに育てばどうなるかはわかり切っているようなものだ。
つまり、これは武器製作などと言う非常に疲れる仕事から逃げ出したいから妹達を理由にしているなどと言う事実は一切なく、純粋に家族の精神の健全性を守るための思いやりなのだ。
……しかしデメテルもヘラも美人だなオイ。美人と言うか美神なんだが、なんにしろ超絶美人だ。ゼウスが当時の妻と別れてまで抱きたいと思った理由もわからなくはない。
そんな可愛らしい妹達のために、完全金属製のピアノを用意してみた。外枠、打鍵、機構、弦の一本一本に至るまで全てが金属製のそれは、アダマスを使おうと思ったんだが外の枠部分にしか使えなかった。打鍵槌で叩いてもアダマスの弦だと音が鳴らなかったり、鳴ってもめっちゃ高い音しか出なかったりで使い物にならない。アダマスでトリッキーな武具を作ろうとするとやっぱり鎖のような構造が必要になってくると再確認した。曲がらんし折れんし頑丈すぎるからな。
作るのは滅茶苦茶苦労した。蠢動するミミズの体表を参考に、隙間を開けつつ外れない構造にした細くて短い筒を一体何十万作ったことやら。失敗含めれば一千万じゃ利かないほどに作った気がする。そして、術式でも歪められないのだから本当にふざけているよなこの謎金属は。原子配列とか組成とかが凄まじく気になる。
まあ、家庭の守護者と言うのなら音楽ぐらいできた方がいいだろうと思ってやってみたんだが、これが結構いけるもんだ。子守歌補正でもついているのか静かな歌なら大して練習もしないで行けたし、応用すれば元気な歌やらうるさい曲までなんでもござれ。アメイジンググレイスが弾けたのは嬉しかったね。楽譜とかよく覚えてないからうろ覚えのを適当にコピっただけだけど。
だが、そんなんでも名曲は名曲。デメテルもヘラも喜んで聞いてくれた。壊さないようにすれば好きに触っていいと言っておいたし、簡単な楽譜は置いておいたからたまに練習に使ってくれたりするんじゃないかと期待している。次はピアノじゃなくてバイオリンでも作ろうかと思ったが、ピアノのよりも弦がやばい。叩けば音が出るピアノより数倍難しい。金属製の弦を擦り合わせたところで音なんざ出ねえんだよ!と、言うことで諦めた。無理です。できなくはないけど絶対やんない。ここから出たら普通に自然物使って作ることにする。いくら合成しても錬金しても金属と金属を混ぜたところで金属系統しか出てこない。しかもこの場にあるのはほぼ全てが金気を宿した土塊ばかりで土から石に、石から金属に錬金していったとしても最終的に出てくるのはアダマスばかり。一番手軽で効果的な食事と言う娯楽が味わえないのは非常に辛い。元人間としては発狂しそうなほどに辛い。
……まあ、そんな状況にあるんだったら、ちょっとした禁忌くらい犯したところで何かを言われるようなことは無いだろう。神としては同族の肉を食べることは本格的にやばいことだし、そんなことをしていたら宗教と言うか神話体系によっては悪魔扱いされたり周囲の神々に本気で討伐されそうになっても仕方のないことだが、それについてはもう全部
と言うことで、今日も元気に剥ぎ取りをする。ここは
……空腹なのは、悲しいからな。本当に。