俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、竈に向かう

 

 もう色々と面倒になったので、正確に三分の一ずつに切り分けて三柱の口の中にねじ込んで終わらせた。はっきり言って美しさなんて個人の趣味の範疇だ。俺に聞かれてもそんなものわかるか。

 美しさを数値で表す? その数値はどう決める? そして、その数値は絶対の基準となりえるのか?

 感情は形の無い波のようなものだ。何度見ても全く同じだけの感動を得ることができる物などそうは無く、また同時に全く同じものを見ていたとしてもその感情の方向すら同じものであるとは限らない。例えるのならば、どこかの英雄王と外道神父、そして正義の味方になれなかった男と正義の味方になってしまったものが全く同じものを見たとして、片方はその光景に愉悦を覚え、片方はその光景に嫌悪を抱く。あるいは同じ物を見ても喜びと怒り、悲しみと喜悦、無感動と感心などなど、見る物によっても様々に変わる。

 そんなものを数値化するとなれば、相当な労力が必要となることだろう。俺はそんな面倒臭いことは御免だ。

 なので林檎はさっさと三等分して食わせ、種だけもらって畑の一角に撒いてみた。流石に黄金の林檎は取れないだろうが、普通の赤い林檎でいいから欲しい。果物はカレーに合う物が多いし、ナンに混ぜる果汁も今までは柑橘系が多かったが林檎の風味を付けられるようになると言うのは大きい。

 ここである程度大きくなったらタルタロスに植樹して、蜂たちに受粉を任せつつ蜂蜜と林檎を作るとしよう。きっと子供舌な連中によく合う甘口カレーが作れるようになることだろう。俺は中辛ぐらいが一番好きだが、辛口や甘口も嫌いではない。

 

 ……とまあ、ここまでは良い。俺もここまでは望んでやったことだ。だが……

 

「でかくなるの、早いな」

 

 目の前には巨大な林檎の木が聳え立っていた。このままだと少しばかり……いや、正直に言おう。かなり邪魔なのでさっさとタルタロスに丸ごと転移させ、植え直す。空間置換は事前に少しばかり手間がかかるが、直接持って行くのに比べればかなり楽でいいな。

 そして予定通りに蜂たちにこの木の世話を頼み、木の方にもあまり変な形態進化はしないように言っておく。林檎の木が突然に蜂を食べる食虫植物になったりしたらいろいろ困るからな。蜂たちからの蜂蜜の供給が止まれば、中々甘い菓子が作れなくなってしまう。この時代において甘味と言うのは非常に貴重な物だからな。

 そうならないように注意しておいたが……もしかしたら言うまでも無かったかもしれないな。きっと仲良くやってくれることだろう。

 

 まあ、これで暫くすれば林檎が取れるはずだ。林檎の季節になったら取りに来るとしよう。その時のために、林檎を使った料理や菓子のレパートリーを増やしておこう。今のところ、カレーに使ったり糖蜜付けにしたものをケーキに使ったりとかしか思いつかないからな。

 竈からかなり派生したものではあるが、俺はこれでも料理の神で、菓子作りの神でもある。林檎を使った料理の一つや二つ、作れないでどうするっての。

 ……確か、林檎と林檎ジュースを使ったリゾットなんてものがあったな。どっかの漫画で。今度作ってみよう。

 それに、酒だ。林檎の酒。それに蜂蜜酒に林檎を漬け込んだりしてみれば、また少し違った風味が楽しめることだろう。考えることはいくらでもあるし、できることもいくらでもある。黄金の林檎は知恵の果実とも言うが……どうせだ、その『知恵の果実』をふんだんに使ったパイでも焼こうかね。

 今は残念ながら林檎が無いから、代わりにミートパイでも作るか。鴨肉を使ったミートパイ。鴨の油を一滴も逃さず作り上げれば、しっとりとしたいい風味になるもんだ。

 

 ……ああ、やばい、考えてたら鴨肉使ったカツとカレーを一緒に食べたくなってきた。作るか。

 


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