俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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(白羽の矢的な意味で)


竈の女神、矢が立つ

 

 金色の林檎。ギリシャ神話において、不和の神より最も美しい女神へと贈られたその実。それがなぜか俺の目の前においてある。

 その林檎から視線を上げれば、三柱の神格が俺を見つめているのがわかる。

 ゼウスの現在の妻である婚姻と契約の女神ヘラ。ゼウスの娘である知恵の女神アテナ。そして俺の義理の娘の妻である美と性愛の神アフロディテの三柱。この三柱が金の林檎を受けるに相応しいと名乗りをあげたのだ。

 そして、その場において最も偉かったが故に林檎の所有者を決めることになったゼウスは本当に焦ったようだ。

 なにしろ一柱は自身の妻であり、普段はあまり表に出さないものの怒ると口に入るもの全てに凄まじい量の砂糖を使うことで抗議してくるヘラ。もしもヘラを選ばなければ、それから暫くの間食べるもの全てが比喩ではなくゲロ吐くほど甘い味付けになることは間違いない相手。

 一柱は自身の娘であり、ガイアの予言のせいで自身が勝てないことが運命付けられてしまっているアテナ。彼女を選ばなければ、その勝気で徹底的な性格からどんな報復が飛んでくるのか分かった物ではない。ゼウスがゼウスではなくオーディンだったのならともかく、ゼウスはゼウスだからな。

 そしてアフロディテ。美の神であるだけあってひたすらに美しく、同時に性に奔放な性格のためゼウス自身も何度も世話になった関係にある相手。けして選ばなければならない理由はないが、しかし同時に選ばなかったときの反応が最も理解できない相手。選ばなかったのに次に閨に呼んだりすれば、もしかすると次の日には全裸で縛り上げられて門の前に吊るされた主神の姿が曝されることになる可能性すら存在する。

 ゼウスは迷っただろう。凄まじく迷ったことだろう。そして迷いに迷った結果───俺に決断を押し付けてきやがったと言うわけだ。

 

 まあ、とりあえず今度の月一カレー日にはゼウスが食べるカレーにだけヤバイもの混ぜておくことにして、俺は俺でさっさとこいつらの中から黄金の林檎を受け取ることができる奴を選ばなくちゃならない。

 ……さて、どうすっかなぁ……。

 

 ヘラ。俺の妹で、年に一度、身も心もリフレッシュするという言葉がこれほどに合うだろうかと思うくらいに化ける。その時の美しさは、それこそ手を触れがたい程の物。美を司るアフロディテですら、その時のヘラには及ばないだろう。

 逆に、常に美しく在り続ける存在がアフロディテだ。ヘラの特に美しい時期を除けば、アフロディテは最も美しい女神。それは誰もが認めることであり、同時に誰もがそう認めるからこそアフロディテは美しい存在として居られる。概念的にもそう言うものなのだ。

 もしも、美しさを数字で正確に表すことができるならば、年間の平均値が最も高いのは間違いなくアフロディテだろう。

 

 さて、ここで言及されるのがアテナだが……正直なところ、俺はアテナという女神のことをよく知らないのだ。

 ゼウスの頭をヘファイストスがカチ割って産まれてきたと言う事は知っている。ヘファイストスから『なんかうちの親父が「頭痛いから割って中見てくんね?」って言ってきたんだけど……』と相談を受けたからな。ちなみにその相談には『あいつは昔自分の権力を絶対的な物とするために当時の妻と自分の間に生まれる子供が生まれてこないように妻を水に変えさせて飲んだんだよ。今その子供が頭の中に居るから、割ってやれ』と答えておいた。ガイアから貰った予言の権能をこっそり使ってゼウスから産まれる子がゼウスと争った場合、ゼウスは何やかんやあって最終的に負けると言う予言をしておいたので、俺にとってアテナは対ゼウス用の最終兵器扱いだったりするが、それでもよく知らん。知ってることと言えば、やや頭が花畑と言うことくらいだ。天真爛漫さ、美しさと言うより可愛らしさで言えば三柱の中では断トツなんだが……美しさでは、なぁ……。

 ちなみに予言については俺が勝手に一人でやったので、俺以外に知ってる奴はいない。そう言う事を広く知らせると面倒だからな。

 

 さて、誰を選ぶかね。

 


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