竈の女神、産まれる
最近の小説では、よく『転生』ってのが出てくる。一度死んでしまった主人公が、神様だったり悪魔だったりの頼みや命令で今まで住んでいた世界とは全く違う世界に赤子として生まれ変わったり、あるいはどこかの作品の世界に行くことになったりするわけだ。
俺はそんな小説を割と好んでよく読んでいたし、時々主人公の行動に違和感を感じて読み進んで行ったら最後の最後にネタばらしでそれらの違和感がまとめて解明されたり、あるいは投げっぱなしのまま放置されてモヤモヤしたりするのが好きだった。
そして、そんな俺が今、ようやく気づいたことがある。
……そういった作品は、自分の身に降りかかることがないと言う保証のようなものがあるからこそ楽しめるのだ、と。
まずは名乗ろう。俺は■■■■。西暦1994年に日本と言う国で生まれ、そのまま日本で暮らしてきた。今では一応大学生やってるが、成績はあまりよろしくない。遊び重点だったからそれについては仕方ないし、後悔も全くしていないが、それでももう少し勉強を頑張ればよかったとテストの度に思いながらも喉元過ぎてすぐにまた遊び始めるタイプの人間だった。そこまで本気でやっていなかったのは、そのやり方で一応何とかなってきていたからだ。地頭はよかった方なので、大体テスト前に一度ノートと教科書を見返せば最低限の点数は取れた。
そんな俺だったが、今俺は神話の世界に居る。理由はわからない。原因も不明。だが少なくとも今の俺が日本に住んでいた俺とは一線を画する存在だと言うことは間違いない。何しろ俺は元々男だったのだが、なぜか身体が女になってしまっている。それだけではなく、なんか身体の中に妙な力のようなものを感じるし、しかもその力をかなり自由に使うことができ、まるで魔法のような現象を起こすことができるのだ。
これだけなら神話の世界に居るとは言わない。生まれ変わりなんて言う事が起きたんだから魔法の実在くらいで驚いたりはしないし、異世界でありかつ魔法のある世界ならばこのくらいの事ができてもおかしくはない。身体は子供かもしれないが中身はもう20行ってるのだから当然のこと……かどうかは置いておくとして、できている。
問題は、俺や両親の名前だ。俺はついさっきも言った通り、元は日本に住む大学生で性別は男だった。名前は思い出せないが、数人の友人達と馬鹿話をしたり少々嗜好の腐った知り合いに┌(┌^q^)┐<ホモォ…な想像をされて付き合い方を考え直そうとしたこともあった。しかし今では間違いなくこの身体は女のもので、しかも名前はヘスティア。
……うん、ヘスティア。しかも両親が大地と農耕を司り、ティターン神族の長でもあるあのクロノス(時空の神とは別物)と、同じく大地を司る女神であるレアー。香ばしくも懐かしい厨二病時代に調べたのがまだ頭に残っていたと言うことも驚きだが、その内容に驚くべきだろう。
はい、俺は竈の女神様です。
……なんでこうなったし。マジでなんでこうなったし。
いや、確かに俺はよく怪物扱いされていた。人間かどうか怪しいとよく言われていたし、怪物らしさを隠そうともしていなかった。スタプラごっこと称して自分に向かって飛んでくる輪ゴムパチンコの弾(消しゴムの切れ端)を親指と人差し指でつまんで止めて見せたりしたし、かめはめ波の練習でかめはめ波は出せないにしても両手で撃ち出した空気の圧で5m先の蝋燭の火を掻き消すくらいのことはできていたし、バスジャックされたバスに跳ねられた時に
だってのに何で俺はオリンポス12神にも数えられるような滅茶苦茶偉い神様に生まれ変わろうとしてるんですかね? 意味がわからない。マジで。
とは言え、なっちまったものは仕方ない。俺なりに女神ヘスティアとして行動させてもらうとしよう。まずは……成長することからだな。精神的に成長することで外見も成長させることができるらしいし、できる限りはやってみよう。どこまでできるかは知らないが。