英雄の裏に生きる者達   作:無為の極

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第1話 闇に蠢く者

 連続して聞こえる発砲音と同時に、周囲に薬莢がこれでもかとばら撒かれていた。

 既にここが戦場になってからどれ程の時間が経過したのかをその男は判断する暇が無かった。

 突然、深夜とも明け方ともつかない時間に、破滅が襲い掛かっていた。時は第二次世界大戦末期。

 これまで順調に攻め込んでいたにも拘わらず、それまでの戦果など最初から無かったかの様に一気にひっくり返されていた。

 幾度となく発砲する銃撃を、まるで何も無かったかの様に防がれた瞬間、周囲の仲間は皆が横一文字に斬りつけられたのか、瞬時に絶命していく。

 ここまでは確実に勝利目前の状況だったはず。今の男にとってま正に悪魔の再来を予感させていた。

 気が付けばありったけの銃弾を撃ち込む為に無我夢中で引鉄を引いて行く。その瞬間、兵士が見えたのは煌めく一筋の剣閃だけ。その瞬間、これまでの同士と同じ様に胴体が上下に離れこの世から去っていた。

 

 

「しっかし、まだ抵抗するかね」

 

「だが、ここで見逃せば、今度はこれが俺達の明日だぞ」

 

「幾ら戦争だとは言え、早く終わって欲しい物だな」

 

 この場に生存しているのは二人の男だけだった。お互いが手に刀を所持し、先程斬って捨てた兵士の血を振り捨てると同時に周囲の様子を伺っていた。

 既にこの戦場に生存者の確認は出来ない。気が付けば周辺にあるのは、築くかの様に残された死体の山だけだった。

 

 

「まだこんな所で愚図愚図やってるのか。我は全ての任務を履行した。後は貴様らの鈍刀(なまくら)でも何とかなるだろう」

 

「おいおい。随分な物言いだな」

 

「勘違いするな。貴様らがここで戦っている間に、この基地の制圧の準備は完了している。我は貴様等とは違う。受けた任務に不履行は無い」

 

 後世に英雄と呼ばれる事になるサムライ・リョーマこと《黒鉄龍馬》と、闘神と呼ばれた《南郷寅次郎》の背後で大きな破壊音が衝撃と共に響いていた。

 先程まで堅牢だったはずの要塞の壁が跡形も無く消し飛んでいる。男の言葉通り、当初の任務は何も問題無く完遂されていた。

 

 残す所はここだけが唯一の戦場。本来であれば抵抗勢力は降伏するのが通例ではあったが、ここを護る司令官はその通告を無視し、現在に至っていた。

 軍部は当初上空からの爆撃による破壊を提案していたが、事実上の勝ち戦である兵士をそのまま送り込み、万が一にも負傷しよう物ならば、後々の禍根になると考えていた。

 負け戦となった側が既に自分の命などどうでもいいと考えているからなのか、見えない何かが宿っているかの様に抵抗を続けている。一方の勝利している側も態々危険を冒してまで自分の命を使いたいと考えているからなのか、どこか熱量を感じる事はなかった。

 だからと言ってこのままここだけを放置する訳には行かないだけでなく、万が一敵方の士気にまで影響が出れば、今後は違う意味で厳しい戦いが待ち受けている。

 幾ら戦局は決したとは言っても完全に終わった訳では無い。だとすれば極秘裏に制圧する事が現時点での最善策だった。

 堅牢な守りの要塞は、本来であれば攻略する為には最大の要因でもある城壁が立ち塞がっている。しかし、そんな堅牢な物は無慈悲の内に炸裂した何かによって本来の用途を完全に失っていた。

 既に破壊された事で守るべき物が消失している。ここから先をどうすれば良いのかは考えるまでも無かった。

 

 

「どうした。何を呆けている。貴様ら英雄と呼ばれた者がやらないとなれば、これはとんだお笑い種だな。無理ならば我がやるぞ。勿論、報酬は別途頂戴する事になるがな」

 

「けっ。誰に物を言ってるんだ。要塞の壁面破壊はお前の任務だろうが。……ったく人遣いが荒いのは相変わらずだな。寅次郎、俺達もさっさと行くぞ」

 

「応よ。誰がお前に報酬を払うと思ってるんだ。大局は決してる。だとすれば余計な払いは無用だ」

 

「ならば口よりも先にさっさと行け」

 

 男の言葉に二人は要塞があった場所に向けて一気に距離を詰めていた。

 破壊された要塞の跡地とも呼べる地点までは通常であればそれなりに時間が必要とも取れる距離。しかし、今の二人に取って、その距離は事実上無に等しい物でしかなかった。

 

 極めた歩法は目測でも遠いと思わせる距離を一挙に縮めて行く。お互いの姿が見えなくなる頃、同じ様な大きな衝撃音と共に要塞は完全に爆散し中破から大破へと変わっていた。

 敵国の兵士が完全に全滅しただけに留まらず、既に跡形も無く消滅した様子は直ぐに全国民が知ると同時に、対峙した国々に対し降伏の使者が派遣されていた。

 これまでは圧倒的不利な状況だった戦局は一瞬にして覆る。非常識とも取れるその異能はすべからく世界中が知る事となっていた。

 

 

 

 

 

「これで終わりか」

 

「ああ。一時はどうなるかと思ったがな」

 

「お前ら盆暗の世話は我にとっても面倒な物だ。これを機に少しは己を見つめ直せ」

 

「ったく少し位は言葉を選べよ。小太郎」

 

「莫迦が。事実を述べただけだ」

 

「そんな事よりも先ずはそれだろ?」

 

 黒煙を今だ上げながら既に近くに待機した部隊が次々と要塞があった場所へと向かい出していた。

 事実上の破壊活動の結果は見るまでも無く、生存者の姿は確認出来ない。

 眼下に見下ろす兵士の目的は近作戦の確認でしかなかった。

 既に基地内に残る命は微塵も存在しない。そんな結末を知っているからこそ、どこからか用意した日本酒を片手に三人は宴とばかりに杯を傾け任務完了の美酒を味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに約定した金子は受け取った。我々との契約はここで終了だ。次に会う時はまた戦場となるかは貴様等次第だな」

 

「何だと。傭兵の分際で口を慎め!」

 

「何か勘違いしてるようだな。我々は我々の意志で動くだけだ。報酬はその対価と同時に覚悟を図る物でもある。たかが戦闘機15機にも満たない金子で勝ったのであれば安い買い物だと思うが。最後の分は盆暗二人の名誉の為に負けてやったに過ぎない。それと忘れている様だが、今回は互いの利害が一致しただけに過ぎない。次に会う際には敵同士であれば、その首は遠慮なく貰い受ける。その事実をゆめゆめ忘れるな」

 

「何だと!」

 

「念の為に言っておくが、これはお前達の情報の口止め料も含まれている。我に取ってはどうでも良いが、折角勝った戦いの後で裁判沙汰にはなりたくは無かろう?何だったら今回得た情報を公表するが、どうする?戦場だからと何でも好き勝手して良いなどと戯けた事を宣うのは誰だ?」

 

 小太郎の言葉に幹部はそれ以上の言葉を発する事は出来なかった。幾ら戦争だとは言え、勝てばそれなりに恩賞が出るだけでなく、周囲への影響力は甚大な物となる。幾ら規律に厳しい軍人とは言え、己の利益を見す見す見逃す様な連中ではなかった。小太郎が言う口止め料はそこに起因していた。隙あらば利権に群がるのは何時の時代も同じ事だった。

 

 

「………」

 

「所詮はその程度の人間の分際で、我々と対等だと思わん事だ。報酬はあくまでも我々と口を聞ける様になるだけの要素に過ぎん。勘違いするな」

 

 政府軍から用意された報酬を受け取った小太郎は既にこの場から姿を消え去っていた。

 それと同時に漸く軍部の人間も深呼吸をする様に一息ついていた。最凶で最狂。言葉の通り、歴史の裏から支えるその集団の事は、これまでに一部の高官にだけ伝えらえていた事実ではあったが、こうまでの戦果をもたらすとは誰も予想だにしなかった。

 事実、この集団の諜報と破壊活動は常に敵の急所をついていた。どれ程に凄まじい装備であっても、使い方を知らないのであれば持っていないに等しいだけでなく、補給の為に準備した物資も瞬時に消滅していた。

 

 今作戦に於いて黒鉄龍馬と南郷寅次郎が基地内部に足を踏み入れたまでは良かったが、そこに残っていたのは大量に残された死体だけ。二人はただその基地を破壊しただけに過ぎなかった。

 何の抵抗も無く無残に死だけが残されている。

 これでは兵士の士気が上がる所か、次は自分達だと言わんばかりのメッセージだけしか残らない。

 最後の抵抗も虚しく殺害された兵士の死体は、目が見開いたまま涙の痕だけが残されていた。

 

 この報告を聞いた政府と軍の高官達は何に依頼をしたのか、ここで漸く理解していた。

 死神の軍団との契約の結果がこれであれば、報酬として用意された金子では安上がりだとも後々検証されている。

 二人の英雄の名で完全に霞むが、政府が面々として伝えられた言葉。『風魔』の集団には手出しは無用。どれ程政府の人間が変わろうとも、この言葉だけは後世にまで伝えられていた。

 

 

 

 

「何だ。これで帰るのか?」

 

「当然だ。我々は元からこの戦いに参加するつもりは無かった。一部の馬鹿な者が勝手に起こした戦の尻拭いをこれ以上する必要は無い。暫しの別れに何も言うつもりも無かろう」

 

「ふん。本当に表には出てこないのか?」

 

「我々は戦国の時代より影となって住まう者。名を残す事に利は無い。それよりも、今後のお前達の方が苦労するだろう。もし乞う様な場面があれば合力しようぞ。ただし、我々の利にかなわぬ時はその命は身を持って払う事になるがな」

 

「そんな事にはならなんさ」

 

「そうか。ならば貴様らのやった行為が今後どうなるのか……考えただけでも笑えるな」

 

 旋風が舞った瞬間、小太郎の姿は完全に消え去っていた。歴史の表舞台に出るそぶりは一切無く、ただ己が欲する物を報酬としたその後の姿は事実上の闇に紛れていた。

 政府は今回の大戦の勝利の立役者でもある二人の名を世間に喧伝する事で、未だこの国に仇成す物への牽制を図っていた。その結果、この国に対する反撃の目を完全に封じると同時に最大の戦勝国となる事に成功していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大戦の結果が及ぼした物はあまりにも大きかった。二人の英雄が残した戦績と同時に、その異能は各国にも伝えられる事になっていた。

 戦闘機や戦車をものともせず、真正面から叩き伏せるやり方に、対戦した国の全てが自国でも新たな育成に力を注いでいた。

 近代兵器すら意にも介さない攻撃は戦いに於いての強大な剣でもあり盾でもある。事実の一部だけを切り取り、公表をした日本政府の発表に『風魔』の存在は微塵も存在していなかった。

 その世界大戦から数十年が経過。既に当時の時点で機密扱いだったそれに関しての記録は殆ど残されないまま現在に至っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東南アジアの辺境で国際魔導騎士連盟が派遣した鎮圧部隊と、反政府ゲリラが激突していた。

 当時、反政府ゲリラの攻撃に政府軍は国際魔導騎士連盟に対し助命を求めていた。元々国際魔導騎士連盟は加盟国の嘆願に対し、場合によっては戦力として異能を持った集団。『伐刀者(ブレイザー)』と呼ばれる精鋭を派遣していた。

 一時は伐刀者の投入によって戦線は政府軍へと傾いていたが、反政府ゲリラも同じく合力を得ようと外部へと増援の要請を出していた。莫大な費用はかかれど、絶対の結果を残す集団。その内の数人がここに姿を現していた。

 

 

「ではお願い出来ますか?」

 

「確かに金塊50キロは受け取った。約定に従い合力しよう」

 

 反政府ゲリラのリーダーの言葉に、面を付けた男は確認を終えたのか、表情が分からないままに周囲を眺めていた。

 ここは反政府ゲリラの本拠地。周囲にはこの男を警戒しているからなのか、常に緊張感が部屋の中に漂っていた。

 仮に銃口を向けよう物ならば瞬時にこの場に居る全員の命が消し飛ぶと同時に、この反乱は瞬時に鎮圧されてしまう。この戦いに於いて、どちらが正しいのかは男にとってはどうでも良かった。

 目の前にある事実と、求められる結果。それが今の軍団の有り方でもあり、生き方でもある。

 本来であれば日本の地から離れるはずがないと思われたそれが、どれ程の結果を残す事が出来るのかは、このリーダー以外に一部の側近だけが知りえる事実だった。

 

 

「……そうか。これで我々の勝利は確実の様だな」

 

「今回の契約に沿うならば戦局を覆す程の内容とは思えんが、それでも勝てるのか?」

 

「ああ。それに我々の手でやり遂げなければ意味が無い。それに小太郎殿。言い方は悪いが、そちらに任せればどうなるのは想像できるんでな」

 

 面を付けた小太郎と呼んだ男の言葉に何か思う所があったからなのか、反政府軍のリーダーはニヤリとした笑みを浮かべていた。

 

 

「我々は請け負った仕事だけを成す。後は勝手にするが良い」

 

 その一言だけを残して報酬と共に男の姿は消え去っていた。

 

 

 

 

 

「あんな得体の知れない者に高額な報酬など渡さなくても良いのでは。これでは後々出資者からも糾弾が来るのではありませんか?」

 

「それに関しては問題無い。裏の世界の中でも飛び切りの連中だ。さっきはああ言ったが、このまま奴らの派遣した伐刀者が戦線に出続ければ、今度は俺達の方が危険になる。仮にこのまま政府軍が勝てば俺達だけじゃない。残された連中も最後は粛清されるしかないんだ。俺もそれだけは避けたい。でなければ、これまで死んでいった者達に申し訳が立たない」

 

「……貴方にそう言われれば、私としてはそれ以上の事は言えません」

 

 この戦いは世界中から見ればよくある内乱でしか無かった。

 事実、政府軍についているのは殆どが国民から吸い上げた利益を私腹に肥やした連中だけ。今の反政府軍はそんな圧政に耐えきれなくなった住人が元となっていた。

 既に伐刀者が投入されてからの被害は一気に加速している。そんな苦境の中で出資者から出たのはとある傭兵部隊の話だった。

 当初は訝しく思う部分の方が多かったが、対面してからはそんな感情を持つ事すら許されなかった。

 先程まで対峙していた小太郎と名乗った人物と同席した人間の全てが死を覚悟していた。濃密な死を身に纏っているにも拘わらず、それが当然だと言わんばかりに座っている。

 仮面で表情は分からないが、威圧感を感じさせない事からも異質な存在でしかなかった。

 既にその姿が消え去った後には全員が嫌な汗をかいている。自身が戦場で銃を持つ以上の緊張感だけがそこに残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所詮はこの程度か。だとすれば、鎮圧まではそう時間はかからんだろうな」

 

「ですが、ここは戦場です。油断する事は危険では」

 

「嬢ちゃん。俺を誰だと思ってるんだ。これまでにもこれよりも苛烈な戦場は幾つもあった。闘神リーグもだ。そう考えれば楽勝だろ」

 

「ですが……」

 

「ここまで苦戦する様な事は殆ど無かったんだ。これだけの伐刀者が召集されてるなら、戦線は直ぐにこっちに傾く。実にイージーな仕事だ」

 

 国際魔導騎士連盟からの要請で貴徳原カナタと東堂刀華は特別招集として派遣されていた。

 これまでにも数度戦場に赴いた事があった為に、確かに目の前の男が言う様に、今回の作戦はこれまでの中でもそう厳しいと感じる事は無かった。伐刀者から見れば、来ると分かっている銃弾はそう怖い物では無い。むしろ同じレベルの人間が居た場合のみ警戒していた。

 事実、ここまでの戦いの中でゲリラの攻撃はどこか散発的な物が多かった。本来であれば油断する事は無いが、ここは戦場。世界で一番命が軽いこの場所ではどこか異様なテンションになる事が多く、男もまた同じだった。

 既に勝利の美酒と言いたくなるほどに酒を飲んでいる。余りにも油断しすぎだと思った瞬間だった。

 

 

「嬢ちゃん、何だったら俺にお酌の一つもしてくれよ。偶には良い………」

 

 カナタに言い寄った男はそれ以上の言葉を発する事が出来なかった。目の前に起こったのは血が詰まった風船が破裂したかの様に脳漿がぶち撒かれている。

 突如起こった事実に誰もが一瞬だけ我を忘れていた。

 

 

「なん事なん!」

 

「敵襲よ!」

 

 一発の銃弾に騎士団が逗留していたキャンプは蜂の巣をつついたように慌ただしくなっていた。

 ここに来るまでに幾つもの結界を通り抜ける必要がある。しかも、物理的な物ではなく、伐刀者の伐刀絶技を駆使した物までもすり抜けた結果。あり得ない事実に誰もが正しい判断を下す事は出来ないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが今回の作戦だ。各自、頭の中に必ず叩き込め。それと青龍。今回の役目はお前次第だと言う事を忘れるな」

 

 小太郎の言葉に全員が用意された作戦の内容を頭に叩きこんでいた。

 今回、自分達がやるべき内容は派遣された伐刀者の数を減らす事。元々今回の要請に対し、予算との兼ね合いから派遣したのは小太郎と青龍と呼ばれた青年。それと他の部隊の工作員の取り纏めとして白虎以下2名が派遣されていた。

 戦場に於いてやるべきは敵の殲滅が多く、今回の様に国際魔導騎士連盟の要請で伐刀者が呼ばれた為に急遽依頼された結果だった。

 

 

「それは問題無い。だが、肝心の内容が分からない。相手が相手なだけに慎重な戦術が要求される事になるが、これを見ると殲滅はしない事になっている。本当に大丈夫なのか?」

 

「この件に関しては既に調べはついている。本来であれば殲滅が一番だが、生憎とクライアントは自分達が勝ち取った結果が欲しいのだろう。我々としても困る様な内容ではない」

 

「そうか。参考に聞くが、今回の騎士団の中で遠距離での索敵をする人間はいたはずだが、有効範囲はどの程度だ?」

 

「こちらで把握してるのは700メートルだ。誤差はあるかもしれんが、1000メートル以上の探索は無いと考えてくれ」

 

 傭兵の集団は事前に用意された資料を基に、それぞれの活動の為のブリーフィングを重ねていた。

 今回のミッションは殲滅ではなく、厄介な人間から順次始末する内容。何から先に潰すのかは考えるまでも無かった。

 

 

「ならば狙撃は問題無い。狙撃と同時に任務開始なんだな」

 

「そうだ。今回は参加人数はそう多く無いが、これまでの()()()()()によって気が緩んでいるのは間違い無い。やるならば今夜が決行になる」

 

 小太郎の言葉にその場にいた誰もが作戦の内容を理解していた。

 既に用意された内容に沿うべく、次々と散開していく。そんな中で小太郎と青龍と呼ばれた青年だけがこの場に残っていた。

 

 

「青龍よ。それと一つだけ別のミッションがある。今回の俺達の作戦は殲滅ではない。だからこそ、別件での依頼を受ける事にした。これが今回のターゲットだ」

 

 小太郎が渡したのは簡易的に書かれた内容の紙だった。詳細までは知らされていないが、内容は明らかに今回受けたミッションとは真逆の内容。だからなのか、珍しく驚きが声になって出ていた。

 

 

「おい、親父!これじゃ完全にマッチポンプじゃねぇか。何でこんな依頼受けたんだ!」

 

「ここで親父と呼ぶのはよせ。それと今回の件は北条からの依頼だ。恐らくは当人の肉親が依頼したんだろう」

 

「だが、この情報が正しければこれまでに戦場には何度も出てるぞ。処女じゃあるまいし、考えすぎじゃないのか?」

 

 青龍と呼ばれた青年の言葉は正しかった。

 この内容を見るからに、今回の戦場が初めてではない。ましてや伐刀者である以上、不殺で生き残れるはずが無い。だからこそ今回の依頼に違和感があった。

 

 

「何。簡単な話だ。我々が今回出張ってる事を知ったからだろう。恐らくはそんな情報を()()から掴んだと考えるのが妥当だ」

 

「なるほど。で、条件は本当にこれで良いのか?心情を考えれば生きてるのが望ましいと思うが?」

 

 青龍の持っている紙に書かれているのは生死は問わない(dead or alive)の一文だった。本来であれば生還するのが望ましいが、それはどうやら問題無い。恐らくは行方不明のままになっている事が最大のリスクだと判断した結果だと考えていた。

 

 

「もちろん、生還すれば更に上乗せでボーナスが出る。だが、証が残れば問題無いのが今回の依頼だ」

 

 小太郎はそう言いながら人差し指を立てていた。これまでの依頼報酬の単位は最低限で千万単位。指一本が意味するのは億を表していた。

 

 

「因みに死亡時は?」

 

「十分の一だ。単なる回収に過ぎんからな」

 

「了解。折角のボーナスだ。満額頂く事にするさ」

 

 そう言いながら青龍は改めて自分の任された内容を確認していた。

 傭兵である以上、報酬額によっては精査する必要があるが、今回の情報はソースがしっかりとしている。だからなのか、そのままテントの内部から消え去っていた。

 

 

 

 

「各自配置についたか」

 

《青龍問題なし》

 

《白虎問題なし》

 

《急襲チーム問題なし》

 

《青龍。カウントに入る》

 

 耳朶に聞こえる通信が準備完了を意味していた。既に狙撃地点に移動した青龍から騎士団の駐屯地までの距離は1200メートル。

 抜刀絶技(ノウブルアーツ)を使用したとしても感知して言葉にするまでは着弾する距離に全員が待機していた。

 

 

「3」

 

───狙撃対象となるターゲットを確認する

 

 

「2」

 

───僅かに動かす事で周囲の状況を確認

 

 

「1」

 

───息を止め心臓の鼓動さえも抑える

 

 

「0」

 

───ライフルの引鉄が僅かに動いた

 

 

《着弾確認。直ちに決行せよ》

 

 スコープに映ったターゲットは既に頭部がライフルによって狙撃されたからなのか、その場で力無く倒れている。それが合図となったからなのか、それを合図に襲撃が開始されていた。

 

 


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