やはり俺が界境防衛機関で働くのはまちがっていない。   作:貴葱

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お待たせしました。
奉仕部入部騒動完結編 下となります。

今回も例に漏れず強烈な平塚先生へのアンチを含みますので、お嫌いな方はプラウザバック推奨です。

大丈夫と言う方は、お楽しみください。


つまり平塚静は滑稽な道化師である。下

「貴様、校長に何を吹き込んだ?」

 

4限目を丸々ベストプレイスでサボった後、5,6限は普通に受けて迎えた放課後。熊谷へのプレゼントを家へ取りに戻ろうと教室を後にすると、廊下では般若のような形相を浮かべた平塚先生が待ち構えていた。

 

放課後を迎えたばかりの現在、廊下は部活へ向かう者や帰途に着く者などで溢れ返っている。昇降口への道を塞ぐように立つ平塚先生を迷惑そうに避ける生徒がいる一方、好奇心を揺らされたのかこちらを注視している生徒もいる。……このクソ教師、目立ちたくないってのに無駄に注目集めるようなことしやがって。

 

「別に……先生が自分に都合の良いように改変した昨日の出来事を正しく話して、ちょっとしたお願いを校長先生にしただけです」

 

「お願いだと?」

 

顰めっ面を隠すことなく告げる俺に、先生は怒気を孕んだ声で問いを返してくる。

 

「ええ、昨日からことあるごとに絡んでくる厄介な教師をどうにかしてほしかったもんで」

 

あっけらかんと言い放つと平塚先生の顔はさらに憤怒に染まり、般若を超えて鬼神のようの表情となる。そのまま何やらぶつぶつ呟いている先生を見ながら、いっそ興奮のし過ぎで気絶したりしてくれないかと考えてみたりする。駄目? そっすか。

 

「用がそれだけなら俺にもやることがあるんで帰りたいんですが」

 

なおもぶつぶつ呟く先生を無視してド直球に要求を伝える。まぁこんなんで簡単に解放してくれるとは昨日の件を踏まえて微塵も思っていないが。

 

俺の発言を受けて平塚先生は鬼神の形相の中に嘲りを含めるといった器用な表情を浮かべながら俺のことを鼻で笑った。

 

「はっ、お前のそういった狂言は飽き飽きだ。貴様のような信用のない社会不適合者が戯言をぬかすな!」

 

今の先生の言で『残念ながら信用できる部分がありませんのでね』と言う校長の言葉が頭を過った。信用のない社会不適合者はどっちなんだか。

 

「ぷっ、信用ねぇ……」

堪えきれずに漏れ出した侮蔑の笑いに平塚先生は剣呑な雰囲気を強めながら訝し気な視線をよこす。それに対し「何でもありません」と答えておく。どうやら先生は校長を含めた教師陣から信用を得られていないということに気が付いていないようだ。だとしても今の言葉はあまりにも滑稽が過ぎる。

 

「で、本当に要件は何なんですか? 最初の質問の答えはお答えしたとおりですが」

 

逸れそうになる話を本題に戻す。不毛な口論を続けててもしょうがないし、未だにこちらを注視している生徒がいる。話を進めてとっとと帰るに限る。

 

「……貴様、そして一色には私と雪ノ下への謝罪、そして罰則として奉仕部への入部を命じる」

 

「嫌です」

ノータイムで拒絶の言葉が吐き出される。

 

この先生は馬鹿なんじゃないだろうか。俺にしろ一色にしろ、多少言い過ぎた部分があったのは校長にも言われていたことだ。だがまず謝るべきなのは先生側である。しかもまた罰則入部などとほざいているが、これじゃあ言ってることが昨日と同じ。堂々巡りで話にならない。

 

「というか、校長先生の人柄から考えて俺のお願いは聞いてもらえたと思うんで、先生は俺への接触に制限が掛けられていると思うんすけど……」

 

俺の言葉に先生はピクリと反応を示した。どうやら図星のようだ。どうしようもないな、この教師。

 

呆れを多分に含んだ視線を向けながら口を開く。

 

「周りの言葉を無視して勝手な自己判断で動く。自分の価値基準でしか物事を測れない。癪に障ることを言われれば生徒に向かって手を挙げる……先生の正確な年齢は知らないですけど、何年も教師をやっていて自分のやっていることの愚かさに気付かないんすか?」

 

最大級の軽蔑を込めて先生に言い放つ。

 

煽るように。見くびるように。嘲るように。蔑むように。侮るように。そして、憐れむように。

 

先生は唇を戦慄かせ、拳を握りこんで小刻みに震わせている。あと少しでも刺激が加われば爆発してしまいかねない様子だ。

 

それでも俺の口は止まらない。溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように言葉を紡ぐ。

 

「人のことを信用が無いだの社会不適合者だの宣う前に、自分自身の行いを振り返ってみたらどうですか? 滑稽な道化の平塚先生」

 

言い終えて、いくらかスッキリした面持ちで先生を見やる。刹那―――。

 

「―――比企谷あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

獣の咆哮のような怒号を響かせながら、平塚先生は5歩分ほど開けていた俺との距離に踏み込む。射貫くようにこちらを睨みながら、右腕は後ろに引き絞られ、今にでもぶん殴るといった体勢だ。俺の視界に収まっている野次馬連中は、息を呑む者、小さく悲鳴を上げる者など、様々な反応を示している。そんな野次馬の中でこちらに心配げな視線を送る綾辻と三上を発見しながら、俺は身体を操る。

 

距離を詰めてくる先生に向かってこちらも踏みこんで、引き絞っている右腕を難なく掴み捕った。驚き目を剥いている先生を無視して、そのまま腕を捻じって関節を極める。

 

あっけなく制圧された平塚先生は「離せっ!」だの「教師にこんなことしていいと思っているのかっ!」などとやーやー煩い。いやいや、先に殴り掛かってきたのあんただからな。

 

溜息を溢しながら口を開こうとした、その時。

 

「ふむ……これは一体どういうことですか? 平塚先生」

 

声のした方を振り返ると、鋭い視線を平塚先生に向ける一色と、蓄えた口髭を弄りながらこちらを見やる校長が立っていた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「さて、仕切り直しです。平塚先生、先ほどの一件はどういうことですか?」

 

場所は変わって校長室。俺の拘束から強引に逃れた平塚先生が口を開こうとする中、「まずは場所を移しましょう。ここは人目に付き過ぎる」という校長の一言により、ここまでやってきた次第である。

 

上座には校長先生となぜか俺が座っており、下座には平塚先生が1人で座っている。一色は、心配そうに俺を見ていた綾辻と三上への説明役として離席してもらった。

 

「……校長も先の一件で私が比企谷に拘束されていたのを見たと思います。比企谷は教師に暴力を振るうような人間なのです。やはりきっちりと更生しないと我が校の―――」

 

「平塚先生」

 

平塚先生が捲し立てようと口を回すのを、校長は名前を呼ぶことで止める。先生に向ける目からは冷酷な意思が感じられる。

 

「私は昼の話し合いの際に、“平塚・雪ノ下両名は、比企谷・一色両名に対して授業外での接触を禁じる”と明言したはずです。それを踏まえた上でもう一度問います……平塚先生、先ほどの一件はどういうことですか?」

 

威圧感が込められた校長の問いに、平塚先生は答えを窮してだんまりを決め込む。軽い放心状態と言っていいだろう。

 

要するに校長は“比企谷が平塚に暴力を振るった”ことではなく、“自身の明言を無視して平塚が比企谷に接触した”ことについてが訊きたいのであろう。……まぁ俺の暴力っていうのも、飛び掛かられたから取り押さえただけなのだが。

 

校長はしばらく平塚先生に視線を向けていたが、返答を示さない平塚先生に呆れたのか、首をゆっくりと振り、こちらに視線をよこす。

 

「申し訳ない、比企谷くん。……私もまさかここまで平塚先生が愚かだとは思っていなかった。全容を知っているわけではないが、平塚先生がどんなことをしたのかは、大よそ見当がつく。また、迷惑をかけてしまった」

 

「いえ、校長先生が悪いわけじゃないです。注意されてからほんの4,5時間で注意を破るなんて誰も想像できませんから」

 

単純に平塚先生が誰の想像をも超えるほどに自分勝手だっただけだ。正直誰の手にも終えなかったと思う。

 

校長は「そうですか……」と申し訳なさをにじませながらもそれ以上の言及はしてこない。しばらく顔を伏せながら何事かを考えるようなしぐさを見せると、校長室には静寂が訪れた。外から聞こえる部活に励む生徒たちの声とは裏腹に、痛いほどの沈黙の時間が続く校長室。

 

それを破って、校長が再び平塚先生を呼んだ。

 

「ふむ……平塚先生」

 

「……はい」

力のない返事を先生は返した。

 

「今回の一件、あなたは比企谷くんの学校生活だけを切り取って勝手に彼の人間性を決めつけて貶し、自分の描く絵空事のために利用しようとしました。私たち教師は生徒を導く立場であって操る立場ではないというのに」

 

「……はい」

なおも先生の返事に力はない

 

「そして今回の件だけではなく、他の件でも私のもとにクレームが来ています。さらに、私も含めた教師間の評価は低い。それらすべてを踏まえて、平塚先生には減給6ヵ月の懲戒処分を下します」

 

「…………」

先生の返事はない。

 

「もちろん昼に言った通り、比企谷くん、一色くんへの授業関係以外での接触は禁止します」

 

俺は平塚先生をに目を向ける。虚ろな瞳を校長に向ける先生の姿は、先ほど鬼神のような形相を浮かべていた先生とは似ても似つかないほどに生気が感じられない。

 

「最後に、処分期間中に問題を起こしたり、処分期間を終えても行いに改善が見られなかった場合―――」

 

そこで言葉を区切った校長は、少しの間をおいて平塚先生を断罪した。

 

「平塚先生を不適格教員として教育委員会に訴え出ます」

 

校長の言葉を耳にした平塚先生の表情は俯いてしまって伺うことができない。

 

響きからして大分大ごとな気はするが、残念ながら俺の辞書は不適格教員の意味を示さない。なんか重い処罰だと思っておこう。……若干平塚先生が不憫に思えてきた……まぁ、自業自得か。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

その後すぐ、俺は校長から退室の許可をもらって一色と合流した。綾辻と三上は仕事があり、ちょっと前に別れたとのこと。ずっと俺の心配をしていたみたいで、一色が簡単に事情を説明すると、珍しく憤慨する様子を見せたらしい。後で謝っておこう。

 

一色にも心配かけて悪かったと謝ったところ「はっ! 素直なところを見せて普段とのギャップ萌えを狙っちゃった感じですかごめんなさい一瞬トキメキかけましたが冷静になるとやっぱり気持ち悪いです」と罵られた……解せぬ。

 




ここで平塚先生に退場されてしまうと、今後の話展開の都合上困るので、今回こういった落としどころとさせてもらいました。

実際に不適格教員(指導力不足教員ともいうらしい)と言うものは存在しているらしいのですが、細かなことに関しては私の知識不足のためわからない部分が多いです。簡単に説明すると、生徒に対しての指導力、また保護者への対応力などに難のある教師だそうで、認定を受けてしまった教師は再教育施設に送られるそうです。そこで指導力向上を図り、期間を終えても改善されないようであれば免職処分となることもあるらしいです。

※あくまでネットの情報を軽く調べた程度なので鵜呑みにはしないでください。

次話では熊谷に誕生日プレゼントを渡す下りとなる予定です。


最後に謝辞を。
Schwarz Eisen様、毎話の誤字指摘ありがとうございます。
私のチェックの甘さゆえの誤字に時間を割いてしまい申し訳ありません。

読んでくださっている皆様。
いつの間にやらUAが35,000を超えており、書くためのモチベーションとさせていただいております。またお気に入り登録も700を超えており、ありがたい気持ちでいっぱいです。これからも皆様に楽しんでいただけるよう頑張っていきますので、お読みいただければ幸いです。

それでは、また次回。

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