やはり俺が界境防衛機関で働くのはまちがっていない。   作:貴葱

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お待たせしました。
奉仕部入部騒動完結編 中となります。

それではお楽しみください。



つまり平塚静は滑稽な道化師である。中

校長の一言で、口からは驚きの声が漏れた。唐突に事実を突きつけらたことで一瞬言葉に詰まったのだ。とは言えそれは一瞬のことで、ちょうどいいタイミングで鳴った午後の授業開始のベルが気持ちを落ち着かせてくれた。

 

俺の先の反応に校長先生は口元に苦笑を浮かべている。チラと目を向けた一色に至っては顔を伏せて身体を震わせて笑いをこらえている。……俺の間抜けな反応を差し引いても一色は笑い過ぎだな。後で天誅を下そう。

 

そんな一色への罰は後で考えるとして、なおも苦笑を浮かべている校長先生に視線を戻して切り出す。

 

「……何で知ってんすか?」

 

俺の言葉に一瞬目を細めながら校長は反応を示す。

「ふむ……もう少し狼狽えるかと思いましたが、存外立ち直りが早いところを見ると予想は付いているんじゃないですか?」

 

図星をつかれて若干顔を顰めると、校長は苦笑ではない笑いを覗かせる。微笑を漏らしてこちらに問いかけてきた校長の姿は、悪い人ではないのだろうが意地が悪いというか。老成した容姿や言動の裏側には、何か思惑が見え隠れしているように感じる。

 

俺が先の言葉への返答として「なんとなくは」と返すと、校長はさらに口元は笑みを深め、目は続きを催促しているような雰囲気に満たされる。

 

「……いくら俺個人が隠そうとしても隠し通せることじゃ無いのは感じていました。総武高校はボーダーと提携してますし、ボーダーから学校に情報が入ってくるのは自明の理です。ましてや学校のトップである校長先生のもとには一般教師より多くの情報が入ってくると考えれば、俺のことを知っていてもおかしくはないはずです」

 

想像も大いに含んだ発言だが、てんで的外れと言うことはないだろう。総武校とボーダーが協力しているのは間違いのない事実だ。どのような協力関係に両者があるのかは俺の知らないところだが、総武校の身体測定にトリオン能力測定も含まれているのは、明らかにボーダー側のメリットの一部だろう。そういったことを考えると、両者間で情報の共有が行われていても何ら不思議はない。

 

俺が示した答えに校長は首を縦に振って頷く様子を見せた。

 

「概ね比企谷くんの言う通りですね。ボーダーとの情報窓口は教頭先生に一任してますが、共有は教師間で行われてます。私の方でも本校生徒内のボーダー隊員の情報には目を通していますので、もちろん一色くんが比企谷くんの部下と言うのも把握していますよ」

 

そういうと校長は一色の方に目を向ける。向けられた本人は「先輩のことがバレてた時点で、そりゃあ私のこともバレてますよねー」とケロッとした態度。

 

校長は俺に視線を戻すと、人差し指を一本立てて俺の頭頂部を指さしながら話を続ける。

 

「もっとも比企谷くんに関しては、総武高校が提携を結ぶ際に視察で訪れたボーダー本部で見かけたことがありますので、君が総武校に入学する前から知っています。君の特徴的な髪の一部はずいぶんと印象的でしたので」

 

どうやら俺のアホ毛はずいぶんと記憶に残りやすいようだ。自己主張の激しいアホ毛に対して軽く溜息が出る。

 

「……校長先生の話を踏まえると、教職員は俺たちがボーダー隊員であるという情報を共有してるはずです。だとしたら平塚先生の態度はおかしくないですか?」

 

平塚先生の態度が俺たちをボーダーだと把握した上のものなら、正直頭がおかしいとしか言いようがなくなる。

 

「ふむ……彼女は知らないはずです。教師間で情報の共有がされているとは言いましたが、正しくは“一部の”教師間で、となります。信用に足らないと私が判断した者には、ボーダーから受け取った情報の一切を渡していません」

 

そう断言した校長はなおも言葉を続ける。

 

「一部生徒からは平塚先生へのクレームが上がっています。それに加えて普段の態度や注意の無視などで教師たちからの評価も相当に低い。残念ながら信用できる部分がありませんのでね」

 

校長の言葉にげんなりする。おそらく昨日俺にやったような行いを他でもやっているのだろう。クレームも来て然り、信用などされるはずもない。ここまで言われるということはよっぽどなのだろう。

 

校長は心中を吐露し終わると左手の腕時計をチラと見やり、手を大きく打ち鳴らすことで仕切り直しをはかる。予想以上の大きな音に俺と一色が揃ってビクッと反応すると、苦笑しながら「すみません」と謝を示し、口火を切る。

 

「話しが大分脱線してしまいました。本題に戻しましょうか。比企谷くん、一色くん。昨日の出来事をお聞かせくださいますか?」

 

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「ふむ……」

 

昨日の職員室と連れていかれた教室での出来事を粗方話し終えると、校長は澁顔をさらした後、考えるように目を伏せた。

 

別段それほど長い話でもなかったので、途中に一色の補足が入ったことを入れても、ほんの数分程のことだったとろうと思う。その数分の話だけで、一色は平塚女史への憤慨を再発させ、俺は俺で嫌悪感をを露わにし、校長も思うところがあったのだろう。

 

「申し訳ありません。比企谷くんの皮肉や一色くんの暴言など、本来であれば問題にしなくてはいけない部分はありましたが、今回の件に関しては先に火種を作ったのは平塚先生と雪ノ下くんです。2人の気持ちなど微塵も理解できかねますが、学校の代表者として謝罪させてください」

 

しばらく沈黙を貫いていた校長先生が沈痛な面持ちの頭を下げ発した言葉に、俺と一色は揃ってゆっくりと頭を振る。

 

「校長先生が謝罪することはありません。学校とかボーダーとか以前に、問題があったのは2人の人間性なんで」

 

「先輩の言う通りです。これはあの2人に謝ってもらわないといけないことですよ。……謝ってもらったところで許すかどうかは別問題ですけどー」

 

俺と一色の弁に校長は「早まったことをしました」と、意はない様子を示した。

 

「しかし平塚先生はともかく、雪ノ下くんまでそんなことを言っていたんですか……。これは教師間にある“雪ノ下雪乃は品行方正な生徒である”という考えも見直さなければならないですね……」

 

校長先生は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐きながら気持ちを落ち着けているように見えた。

 

「……話は概ね理解しました。2人はもう退室してもらって構いません。後のことは私に任せてもらえますか?」

 

「分かりました。……ただ一つだけ。俺たちはあの2人とはもう関わり合いになりたくありません。その辺のことを取り計らってもらえますか?」

 

俺の言葉に横の一色もブンブン首を縦に振っている。赤べこかよ。

 

「……了解しました、私の口から伝えておきます」

 

了承を取った俺は「ありがとうございます」と校長に頭を下げ、教室の出口に向かう。一色も続くように立ち上がっている。

 

扉を開け一色と外に出てから中を振り返り「失礼しました」というと校長は「時間とご迷惑を取らせてしまい申し訳ありませんでした」と再度頭を下げて謝罪を告げる。軽く首を振ってから、生徒指導室に校長を残して扉を閉める。

 

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「校長先生は話の分かる人でよかったですねー」

 

一色が呑気な声で告げてくる。

 

「平塚先生みたいなタイプの方が少数派だろ。現に教師間でも嫌われてるって話だし」

 

軽い雑談を交えながら教室へ戻るための階段の方へ足を向けると、タイミング悪く平塚先生と雪ノ下が階段を下りてきている。後ろの一色がすぐに殺気立ったのが分かった。

 

「貴様ら、どこへ行く?」

 

開口一番生徒に向かって貴様と言い放つ教師とか、そりゃあ嫌われて当然だな。

 

「俺たちの話し合いは終わりました。生徒指導室で校長先生が待ってますよ」

 

そういって俺と一色はやーやーやかましい平塚先生と、こちらを睨みつけている雪ノ下を無視して階段を上って行った。

 

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2人と離れても殺気をまき散らす一色を何とかなだめてから別れ、2年F組の近くまで来てふと気づく。今入ったら無駄に注目集めんじゃん。

 

「はぁ、サボるか」

 

教室を前にしてUターンを決めて、俺はのっそりと誰もいないだろうベストプレイスへ向かって歩き始めた。

 




最初は校長先生の頼みということで八幡が平塚先生、雪ノ下の監視役として奉仕部に入部するパターンも考えていたのですが、せっかくなら思い切り原作と乖離させてみようと思い今の形として落ち着きました。

それでは、また次回。

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