やはり俺が界境防衛機関で働くのはまちがっていない。   作:貴葱

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遅くなってしまい大変申し訳ありません。

今回漸くワートリ側にも触れることができました。
楽しんでいただけると幸いです。


比企谷八幡は嵐の間に束の間の安息を得る。

『ほぇー、なんか来るのが遅いと思ったらそんなことになってたんだー』

 

話を聞かない似非熱血教師と、毒舌と睨むしか能のない厄介な女。そんな2人から解放された俺と一色は、現在警戒区域南西で防衛任務に当たっていた。小町と通信しながら、俺は廃屋の上で寝そべり、傍らで一色も座り込んでいる。今はトリオン兵が出てくるまでの小休止といったところか。

 

「まぁな。ったく、面倒くさいったらありゃしない」

 

「ホントですよー。先輩は助けてあげた私にもっと感謝してくださいね?」

 

「いや、お前もなんだかんだ火に油を注いでたじゃねぇか……」

一色が止めを刺してくれたおかげで抜け出せたのは事実だが。

 

『というか、お兄ちゃんはなんでそんなとこに連れてかれることになっちゃったのさ? さすがに何もしてないのに連れてかれたわけじゃないんでしょ?』

 

「うーむ、俺の書いた作文が火種ではあるんだろうが、正直難癖付けてた感じがするな。そもそも騙されて連れていかれたようなもんだったし」

俺の言葉や態度が先生を傷つけたってことへのペナルティとか言われた気がするが、よっぽどあの教師の言動の方が人を傷つけ得るものだった。

 

『えー……なんでそんなのが教師してるの?』

 

「さぁな。まぁ何のドラマや映画に感化されたかは知らんけど熱血教師を気取った残念な先生だったな」

 

熱血教師っていうのはフィクションだから許されるのであって、現実にいても唯々ウザいだけだ。生徒の為とかほざきながら、そっちの都合を押し付けてくるのは害悪以外の何物でもないし、そういうことをほざいてる教師に限って、自分に酔っている場合が多い。

 

「あー、教室での言い草も酷いものでしたしねー。在りもしない権力振りかざしたり、こっちの都合を考えない言動とったり。少なくとも尊敬できる人格では微塵もなかったですね」

 

「概ねその通りだな」

 

『……ホントなんでそんなのが教師してるのさ?』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その後も俺と一色が平塚女史をボロクソに酷評していると、小町からストップが入る。

 

『はーい、2人ともストップ! 誤差3.37で門が開くよー。イライラはトリオン兵にぶつけちゃってね♪』

 

「はいよ。種類と数は?」

 

『バムスターが6体、モールモッドが3体だね』

 

ここからじゃ図体のデカいバムスターは丸見えだが、モールモッドの姿が確認できない。ちょっくら確認してくるか。

 

「了解―――」

言うが早いか、俺はグラスホッパーで飛び上がり、モールモッドの位置を確認して元の場所に着地する。向かいの廃屋の裏手にいたため、俺じゃ射線が通りにくいな。

 

「数に問題なし。一色は向かいの廃屋の裏手にトマホーク投げ込んどけ。それでモールモッドは片付く。バムスターは俺がやっとく。ここからでも当たるし」

 

俺はのそのそとコチラに向かってくるバムスターたちに向けて計6発のライトニングを放つ。弾は問題なく弱点である口の中に吸い込まれていった。……やはり極力動きたくない俺からすればスナイパーは天職だな。楽できることは良いことだ。

 

「片付けたぞ」

 

「こっちもすぐ終わらせます」

 

そう言う一色の手には、すでにトマホークが出来上がっていた。こいつも段々合成するのが早くなってきたな。最初やった時なんて30秒以上かかってたのに、今ではほんの数秒ほどになっている。なんだかんだ出水を師事させたのは大正解だったな。

 

一色が放ったトマホークは、台形を描くような軌道で俺が指示した廃屋の裏手に着弾した。振り返った一色はこちらにあざとさ満開の笑顔を向けながら「お仕事しゅーりょー!」とか宣っている。いやまぁ時間的にも終わりだろうが、気を抜き過ぎではあられませんこと? ……なんか脳内の口調が訳分からんことになってた気がする。単純にきめぇ。

 

「小町、レーダーにトリオン兵の反応はあるか?」

自分の脳内のキモさに辟易しながら小町に尋ねる。撃ち漏らしはないと思うが、新たに出現することもあるので一応。

 

『んーん、問題なし! きれいサッパリ片付いてるよ! さっすがお兄ちゃんといろはさんは良いコンビだね♪ あ、今の小町的にポイント高い!』

 

「はっ! 今小町ちゃんに良いコンビだって言われてカップルの方がいいとか思っちゃいましたかごめんなさい一瞬私も考えましたが冷静になるとやっぱりまだ無理です」

 

「……はいはいそーですか」

 

何故告白してないのに俺は振られているのだろうと、若干げんなりしながら返事をすると、小町と一色はブーブー文句を言ってきた。が華麗にスルー。千葉のお兄ちゃんなれど、俺は妹や後輩の尻には敷かれんぞっ! 高坂さんとことは違うのだ、フハハハハッ! ……やっぱ俺の脳内がおかしい気がする。学校での一件で変にストレスでも溜まってるんだろうか。

 

俺がしょうもないことに思考を割いていると小町と一色のお小言がやっと終わったようだ。

 

『――お兄ちゃんったらまったく……まぁいいや。それよりそろそろ交代の時間だよー。引き継ぎ先はえっと……那須隊だね』

 

那須隊か。別に苦手ではないがあの隊服は曲者だ。一回直視してしまうとなかなか目が離せなくなって、最終的には小町や一色にものすごく蔑んだ目で見られる羽目になっちまう。男の性だから許してほしいところではあるが……。そんなことを考えていると下から声をかけられる。

 

「比企谷くん、いろはちゃん。お疲れさま」

 

「うっす」

 

「お疲れ様です、玲さん!」

 

道路に目を向けると那須と熊谷が立っていた。熊谷が那須の後ろで右手を挙げて挨拶しているので、俺も手を挙げて簡単に挨拶として返す。後ろから物音がしたので振り向くと、日浦が俺たちがいる廃屋に上ってきたところだった。

 

「お疲れ様です! 比企谷先輩、いろはさん」

 

「おー、お疲れ」

 

「茜ちゃん、お疲れさま!」

 

那須と熊谷が俺と、日浦が小町と同級生と言うこともあってか、うちの隊と那須隊はそこそこ仲が良い。それこそ、うちの隊室でしょっちゅう女子会を開いている程に。……俺? 俺は毎回追い出されている。うちの隊員はもっと隊長を敬った方がいいと思います。……今更だな。

 

一色は日浦と何やら話しているので、俺は廃屋をを降りて那須と熊谷のもとに向かう。熊谷に言っとかなきゃいけないこともあるし。

 

「引き継ぎご苦労さん」

 

「ううん、比企谷くんこそご苦労様。目がいつもより大変なことになってるよ?」

 

「目は元からだっての。今日はほとんどトリオン兵出てこなかったからそんな疲れてないはずだしな」

 

まぁ目が普段より酷いのは間違いなく学校の一件のせいだろう。やっぱ結構ストレスになってたんだな。

 

「それならいいけど……」

 

「心配してくれてありがとよ。っと、そういえば熊谷はこの前誕生日だったよな。おめっとさん」

 

「えっ、あ、ありがとう」

 

「比企谷くん、くまちゃんの誕生日知ってたんだね」

 

「まぁな」

というか、小町と一色が熊谷の誕生日会に行くって話をしていたのを偶然聞いたから知ったわけだが……もちろん俺は呼ばれなかった。

 

「プレゼントも用意してあるから、手が空いてるときにでも連絡してくれたら渡しに行くぞ。小町や一色が世話になってるし、迅さんが迷惑かけたりもしてるから、まぁその礼ってことで」

 

用意したプレゼントはランニングシューズ。身体を動かすのが好きって言う発言からのチョイスだが、正直この選択が正解なのかは俺自身分からん。ちなみにサイズは小町情報。熊谷の誕生日プレゼントを買うって言ったら喜んで教えてくれた。

 

「先輩、くまちゃん先輩にもプレゼント用意してたんですねー」

後ろでいつの間にか一色が冷めた目を俺に向けている。いつ来たんだよ。っていうかお前にもちゃんと誕生日プレゼント渡しただろうが。

 

「んだよ。お前にもちゃんとやったろ?」

 

「そーですけどー! そーなんですけどー!」

何やら文句言いたげな感じでブーブー言っている。

 

そんな中、熊谷がおずおずと訊いてきた。

 

「そ、それじゃあ明日でもいい? 私が隊室まで取りに行くから」

 

「じゃあ明日持ってくるわ。明日は防衛任務もないから隊室でボーっとしてると思うし」

 

「わ、わかった」

 

「あ、それと俺、熊谷の誕生日しか知らないんだが、良かったら那須と日浦のも教えてもらっていいか? 那須や日浦にも世話になっているし」

 

俺がそういうと熊谷は大きく溜息を吐き、小さい声で「分かってたけど……分かってたけど!」と言っている。後ろでは一色が「先輩はそんな感じですよねー」と溢している。……俺なんか変なこと言ったか?

 

「私は6月16日だけど……」

 

「私は7月7日、七夕です!」

気が付くと日浦も廃屋から降りてきていた。

 

「ん、了解。なんか用意しておく。それじゃあ、俺たちはそろそろ戻るわ。すまんな、長々と話しちまって」

 

「ううん、私たちは大丈夫。それじゃあね」

 

「あぁ。一色、帰るぞ」

 

「はーい、せんぱーい♪ それじゃあ失礼しますね、玲さん、くまちゃん先輩、茜ちゃん」

 

俺たちは、漸く本部へ足を向けた。

 

 

隊室に帰り着いた後はおおよそ普段通りに過ごした。マッ缶を飲んで、報告書をこさえ、ストレス発散で米屋をランク戦で細切れにし、マッ缶を飲んで、サイゼで飯を食べて帰宅し、マッ缶を飲んだ。え? マッ缶飲み過ぎ? ……知らんな。強いていつもと違うところを挙げれば、小町が終始ニヤニヤしてたり、一色が若干不機嫌だったことくらいか。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

翌日。相も変わらず学校という名の牢屋に投獄された俺は、粛々と勉学に励む。何のトラブルもなく午前の授業を終え、誰とも言葉を交わさない超健全ぼっちライフの末に辿り着いた学校のオアシスことベストプレイスでパンをもっさもっさしていると、響いている校内放送が耳に入った。

 

『―――繰り返す。2年F組 比企谷八幡。1年C組 一色いろは。至急生徒指導室にまで来るように』

 

午後の授業を前にして、トラブルは口を開けてこちらを待ち受けていた。……いや、“TOLOVEる”なら大歓迎なんですけどね。

 




八幡が熊谷の誕生日会に呼ばれなかったのは、男一人だと肩身が狭いんじゃないかという、那須隊側の配慮から来ています。

次話では再び奉仕部強制入部騒動となる予定です。一応この騒動は一旦落ち着きを見せることとなります。

それでは、次話でまた。

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