日曜日の昼間。
掃除など一通りの家事を終えた僕が部屋に戻ると、風莉さんが机に向かって作業をしていた。
勉強でもしているのかと覗き込んでみれば、紙飛行機を折っていたみたいだ。
丁度、完成したばかりの紙飛行機が一機、机の上にあった。
僕が覗き込んできた事に、風莉さんも気が付いたのだろう。
「ばあやに教えてもらったの。辛い事、悲しい事があった時は、紙飛行機に乗せて一緒に飛ばしてしまいなさいって」
風莉さんは部屋の窓を開けて、外に放った。紙飛行機は風に乗って飛んでいく。
その光景を見ながら、内心、僕はそれどころではなかった。
風莉さんが言った台詞。
辛い事、悲しい事があった時、紙飛行機を飛ばす――彼女は間違いなく、そう言った筈だ。
今現在、風莉さんは第二段の紙飛行機を作成中である。よっぽど、辛い事があったんだと思われる。
一体、何があった――
「……」
僕は風莉さんが折っている紙、それが何なのか気が付いてしまった。
○の数が少ない、テストの答案だって事に。
「風莉さんっ! 何をやっているんですかっ!」
「湊は見て分からないの? 紙飛行機を折っているんだけど」
「分かりますよっ! でもそれ、テストの答案じゃないですかっ! しかも、二十点ってなんですかっ!」
僕の問いかけには答えず、窓の外を見つめる風莉さん。
「とても悲しい事があったわ。テストの点数が悪かったの」
「自業自得ですっ!」
心配して損した。
って、ちょっと待てよ。
「風莉さん、もしかしてさっきの紙飛行機も、テストの答案を使ったんですかっ!」
「そうだけど……何か問題でもあるのかしら」
「あるに決まってますっ! 風莉さん、あのテストには風莉さんの名前が書いてあるんですよっ! 誰かに拾われたら、間違いなく恥ですからね」
僕の言葉で、風莉さんは自分が失態をしでかしてしまった事に気が付いたみたいだ。
「うっ……どうしよう? 湊」
「どうするって、拾いに行くしかありませんよっ!」
かくして僕と風莉さんの二人は、日曜日の昼間から飛んでいった紙飛行機を必死に探すのだった。
結論として、その日は見つからずに、翌日、紙飛行機は見つかった。
女子寮の近くを通りかかった望結さんに拾われていたのだ。
「新聞のネタにしようかと思ったけれど、想像よりも酷かったから、無理だった」
苦笑しながらテストの答案を返してくれた望結さんに、必死にお礼を口にする僕。
同じような事にならないように、次回のテスト前――
風莉さんに対して心を鬼にし、勉強を教えたのは語るまでもない話である。