新聞部の手伝いをしている時の事だった。
「湊さん、いいネタ有りませんか?」
柚子さんに振られて、少しだけ悩んだ僕。
「うーん、ミスコンとかどうでしょう?」
共学時代、文化祭で大いに盛り上がっていたのを思い出して口にしてみた。
尚、ミスコンなのに女装させられて出場し、どういう訳か優勝してしまった暗い過去は伏せておく。
謎の美少女の正体は、今でも謎のままなのである。
自分では割とまともな意見を口にしたつもりだったけれど、柚子さんは僕の案が気に入らなかったみたいだ。
「ぷんぷん、湊さんにはがっかりですっ! そんなの、湊さんがぶっちぎりで優勝するに決まってるじゃないですかっ!」
「あー、うん、やる前から結果は分かってるね」
「いや、待ってください。ここに通っているのはお嬢様達ですよ。庶民出身のボクなんかが勝てる訳ないじゃないですかっ!」
お嬢様ってのは純粋培養で育っていて……間違ってもペットボトルに用を足す、重度のネットゲーマーみたいな真似はしない子で。
性格はおっとりしていて、優しくて、ちょっと世間知らずだけど、助けてあげたくなっちゃう。間違っても食料を危険物にしない。
だからって、中二病の困ったさんでもなくて。
…………。
――世界からお嬢様は死んだっ!
「この学園にお嬢様なんていないっ!」
「湊さんが壊れたっ!」
「あー、いや、言いたいことは分からなくもないけれど、一番お嬢様っぽい飛鳥さんに言われてもなぁ」
「だから、ボクはお嬢様じゃありませんっ!」
「でもでも、実際に湊さんに勝てる人材は学園内に見当たりませんしっ!」
もう少し頑張れ、お嬢様学園っ!
「お嫁さんにしたい候補ナンバーワン。男だったら付き合いナンバーワン。メイドさんとして欲しいナンバーワン。飛鳥さん、WEBでアンケートを取ると、悉く一位だからなぁ」
新聞部のお手伝いをしているから分かっているけれど、どうしてなんだっ!
僕は男なのにっ!
「飛鳥さん、最近は凄い人気だもんね。色々な人から、『どうやったら飛鳥さんが私の兄(弟)の所に嫁に来てくれるかなぁ』って相談されるんだけど」
「絶対に嫌ですっ! どうしてボクが男の人のところに嫁になんか行かなくちゃいけないんですかっ!」
「いや、実際にはさ。きちんと調べれば優良物件もそこそこありそうじゃん。なのに、飛鳥さんってば断固として嫌がるし。最近ようやく分かって来たんだけど、飛鳥さんって男の人が嫌いなの?」
「そうですね。男性と付き合うつもりはありません」
こんな可愛い格好をしていても、しつこようだけど僕は男なのだ。
「なら、女性と付き合うつもりはあるって事?」
望結さんに揚げ足を取られてしまう。
ここで下手な事を言うと、僕が男だってバレてしまう可能性がある。
僕は自分の正体は隠さなければならないのだ。
「そうじゃなくて……ボクは、風莉さんを含めた第二寮の家事で手一杯なんです。恋愛なんてしている暇はありません」
「あー、うん。確かに……忙しいだろうなぁ」
僕の言葉に、望結さんは理解を示してくれたけれど。
「ぷんぷん。湊さんは失礼ですっ! 家事なら私がやれるのに」
と、台所に立ち入り禁止の人が、何か言っている。
「柚子さん、頼みから皆の為にも、止めてあげてね」
「柚子さん、台所に立ち入り禁止の事、覚えてますよね? 頼みますから、勝手に入らないでくださいね」
「ガーン、ショックですっ!」
ショックと言われようと、食材を冒涜するのは許せない行為だ。
命を摘み取り、それを頂いているのだから、きちんと料理して食べるのが最低限のマナーである。
「飛鳥さん、頑張れっ! いよっ、第二女子寮のお母さんっ!」
「湊さん、本当のお母さんみたいですっ!」
「何でですかっ! ボクは皆のお母さんなんかじゃありませんっ!」
大変不名誉だけど、この『お母さん』というあだ名はどういう訳か、広まって浸透してしまう事になる。
数日後、クラスメイトからも『お母さん、頑張ってっ!』と朝から挨拶されて。
僕は乾いた笑いで頷くのが精一杯だった。
この女子学園に来て、一体、僕は何処へ向かっているのだろうか。
そう、しみじみと思ってしまった今日この頃である。